Kamemushi Rider


ラリー船長、初の小説に挑戦!カメムシを主人公とした奇想天外な冒険物語をお贈りします。


#00 Openning Talk

世の中には様々な表現方法での芸術があふれている。僕は音楽が好きだが、映画、読書、絵画など、古いものもいいが、新しいものを見ると発展しているんだなあと驚くことがよくある。最近では、眠る前に紙で本を読むと寝落ちしやすいということをおぼえたのだが、その本が面白いと眠るどころか夢中になって読み進めたくなることもある。映画はエネルギーにあふれている時はたくさんのことを吸収できるのだが、2時間!とか1時間半!とかの時間を考えると、なかなか再生する前に今日はやめて次にしようとなることも多い。その点、アニメはすごいなあと思う。1回に20分前後で、とのことであるので次が気になるとのところぐらいで終了するからハマる内容のアニメにあたると嬉しくなったりする。そして一話づつ見るのが待ちきれず更新されるのを待って少しづつじゃなくまとめてみたくなる、なんてことはよくあるものだ。この物語も少しづつ読んでいただいてもまとめて読んでもどちらでもいい。だいぶ前から閃いていたのだが、僕はアニメは書けないが「こんなアニメがあったら面白いだろうなあ」と思うようなお話をずっと構想していた。名付けて「カメムシ・ライダー」。カメムシを主人公とした物語を少しづつ書いていこうと思う。いよいよ、カメムシの旅が始まる。


#01 Kamemushi Rider " 1600"

 時は1600年、関ヶ原。徳川家康の率いる東軍と石田三成の率いる西軍が天下分け目の戦を行っていた。その関ヶ原において、カメムシも人間の歴史を模倣するように、青と金のストライプ模様のカメムシ率いる東軍と緑と金のストライプ模様のカメムシ率いる西軍が、関ヶ原のはずれにある全く目立たない暗く小さな茂みの中で戦を行っていた。東軍の総大将、徳川家康の息子、徳川秀忠は数万人の家来を連れて関ヶ原の合戦に向かう途上の長野県上田にある上田城で真田昌幸、その子、真田幸村の城を攻め続けていたが真田はわずかな兵なのに様々な作戦に翻弄され、足止めをくらっていた。

 同じころ、これもまた上田城の片隅にある、全く目立たない暗く小さな田んぼのあぜ道で、青と金のストライプ模様のカメムシ率いる東軍の大将のカメムシの息子の率いる何万匹ものカメムシの大群が、今度は赤と金のストライプのわずかな手勢のカメムシの様々な作戦に翻弄され、足止めをくらっていた。関ヶ原では徳川家康が勝利し、息子の秀忠は関ヶ原の合戦に間に合わなかった。カメムシの方も青と金のストライプ模様のカメムシが勝利したが、その息子のカメムシは関ヶ原の合戦に間に合わなかった。関ヶ原の合戦後、上田で足止めをした真田昌幸、真田幸村は配流となり、九度山にある小さな村で暮らすこととなった。同じように上田で足止めをしたカメムシも、真田昌幸、真田幸村を慕ってかどうかはわからないが、彼らの暮らす九度山にある小さな村に移動しそこで暮らした。人もであるが、カメムシも歴史と共に歩んでいたのである。

#02 Kamemushi Rider " Sasuke"

 その後、九度山の小さな村に暮らしていた真田昌幸が死去し、真田幸村のもとに豊臣方から入城のお誘いがあった。世にいう大阪の陣の始まりである。真田幸村は配流の身ではあったが九度山から脱出し、大阪城に入場した。その鎧は赤と黒のストライプであった。敵は徳川家康。真田幸村は積極的に討って出る策を提案するも豊臣方は籠城策を行うこととしたため、真田丸を築き様々な作戦を行い、敵方の徳川家康の大群が苦戦していた。その頃、やはり大阪城の戦場のすぐそばの全く目立たない小さな茂みの中で、青と金のストライプ模様のカメムシ率いる大群が、足軽が落としたおにぎりを包む単なる笹の葉の下に立てこもる赤と黒のストライプのカメムシの様々な作戦に苦戦していた。

 その後、一度は和議をした豊臣方と徳川方であったが、再び大阪の陣が開戦。真田幸村は敵軍の総大将、徳川家康にあと一歩というところまで猛攻撃をした。おびただしく変わる戦況について、サスケという真田幸村の家臣の忍者が幸村が突破口を作るよう戦場で情報を集め真田の兵にさまざまな情報を伝えていた。しかし、幸村はあと一歩のところで力尽き「手柄を立てよ」と敵方に打ち取られた。真田の兵もほとんどが討ち取られていった。同じころ、やはり全く目立たない大阪城のそばにある堀の近くでは、青と金のストライプ模様のカメムシ率いる大群に向かって、赤と黒のストライプの勇敢なカメムシの率いる小さな群れが敵の中に突っ込み、あとわずかなところで敵の大将のカメムシを打ち取る寸前で力尽き、赤と黒の模様のカメムシの大将が打ち取られた。その中でこちらでもおびただしく変わる戦況について伝えていたカメムシがいた。このカメムシがカメムシ界の初代のサスケである。

#03 Kamemushi Rider " Meiji"

 人間のサスケは大坂の陣の後、落ち武者狩りの追っ手から逃れ、農民になった。真田の家臣であったこと、忍者であったことを隠して旅をしていたところ、納屋を間借りさせてくれた農家の主に気に入られ、そこで働き暮らすようになった。人知れず忍術の稽古は欠かさずに行っていたが、その子供に一家相伝の忍術の奥義を教え、サスケの忍術が伝承されていった。カメムシも初代サスケも、人間のサスケの暮らす農家の納屋の片隅で、カメムシもまた忍術を2代目カメムシに伝承していった。人間のサスケは時間をかけてじっくり子供に忍術を教えていたが、カメムシの方は忙しかった。寿命が1年半ぐらいで果てるからである。人間のサスケが75歳でその人生に幕を閉じようとする頃、2代目のサスケは涙をこらえて納屋の枕元で看取っていたが、カメムシのサスケは75歳割る1.5年の速度で代替わりするため50代目のカメムシのサスケが49代目のカメムシのサスケを看取っていた。人間のサスケはそのまま納屋を間借りしたまま農家の家の手伝いをして暮らしていたが、大坂の陣の残党ということがばれぬよう、立身出世するようなチャンスがあっても目立たぬように農民として暮らした。

 その後のサスケを名乗る子孫も同様に農民として江戸時代の大半を過ごしていった。明治時代になる手前では農家の納屋を借りて暮らすことが困難となるほどの飢饉があり、たまたま人夫を募集していた関所で狼藉者や脱藩者をとらえる仕事に就いていた初代サスケの子孫のサスケは、忍術を使えることが悟られぬよう捕獲の現場で臆病者のふりをし、関所を通る通行者の地味な記録係をしているところで明治維新を迎えた。カメムシのサスケも人間の真似をして関所を通るカメムシを葉っぱに記録する最中、明治維新を迎えたのであった。

#04 Kamemushi Rider " Match"

 その後の近代において、人間のサスケの子孫は身を隠して暮らすがすっかり身に染みてしまったのかその後も世に名をあげて現れる、ということはなかった。カメムシのサスケもどこぞと知れずに暮らし続けたが、一家相伝の忍術だけは伝承しながら暮らしていったのである。そして、時は大正、昭和、平成、令和となり、いよいよ現在となった。ここから現在のサスケという名のカメムシを主人公とした物語が始まる。少しづつ人間関係、いや、カメムシ関係が紐解かれていくので、ゆっくり登場人物、いや、登場カメムシの動きを見ていってほしいと思う。まずは現在のサスケからだ。サスケは貧しく、丸めて捨てられた紙のマッチ箱の中に暮らしていた。紙のマッチ箱なので風に飛ばされ、雨に水浸しになり年中災害のような暮らしをサスケは続けていたが、身を隠すのにちょうどよく誰も見向きもしない自分の家をサスケはとても気に入っていた。強風の日にマッチ箱は宮城県のとある民家の納屋の脇に置き去りになっていたコンクリートのブロックの真ん中に空いている穴の中にちょうど納まった。雑草が穴の中にも生い茂っており、マッチ箱が隠れるにもちょうどいい場所だった。

 カメムシのサスケ(ここからは「サスケ」とだけ書きます)はうーんと背伸びをしながらマッチ箱を出ると、そこがとても暮らしやすい場所だと気に入り上機嫌になった。床や屋根はコンクリート造り(単なるコンクリートのブロック)、マッチ箱が風に飛ばされないよう雑草にちょうどひっかかり自然もほどよくあるさまをみて、ずっとここで暮らして忍術の鍛錬をして生きたいなあと思っていた。そこにサスケの妹、サルコの夫である霧隠家のシンゾーが全身傷だらけの瀕死の状態で、その弟のスイゾー、これもまた傷だらけのカメムシ2匹がサスケのもとに真夜中やってきた。サスケはただごとではないことを察知し薬草を煎じた。薬草と言ってもサスケが薬草と思っているだけで煎じていたのは道に落ちていた猫の爪であったが、倒れる彼らが薬草を煎じた白湯を飲んで少し落ち着くと、サスケは寒さをしのげるように2匹のカメムシをマッチ箱の家の中に迎え入れた。2匹のカメムシは虫の息をしながら倒れこむようにマッチ箱の中に入った。そして夜明けまでまったく起きずに熟睡していた。

#05 Kamemushi Rider "Super"

 カメムシのシンゾーが目を覚ますと、マッチ箱のわずかな隙間から差し込む陽の光がとてもまぶしかった。となりでは弟のスイゾーがいびきをかいて寝ている。これはいつものことだったが、自分の妻の兄であるサスケの家に到着する頃は全身の傷と全身の疲労から意識朦朧としており、サスケの家にいることを把握するまで少し時間がかかった。マッチ箱のわずかな隙間から差し込む陽の光からのぞき込む影があった。最初は敵地にいたことのフラッシュバックから隠し持っていた小刀を握りしめたが影がサスケであることがすぐにわかった。サスケがにこやかにこう言ったからである。「バーベキューすっから表にでてこい!」その声でスイゾーも飛び起きた。空腹すぎたからである。マッチ箱の外に最初に出たスイゾーは「おーーっと!」と危険を感じて片足を上げた。太陽の光にあてた虫眼鏡のような原始的な方法で、ガラスのかけらを持ち上げたサスケが壁に置いたナス、ピーマン、トウモロコシのかけらを一瞬で焦げ付かせ、燃やしていたがコントロールがいまいちだったのである。「さすがサスケ様、ワイルドじゃ・・」とスイゾーはため息をついた。スイゾーは「こんな飯ひさしぶりじゃ・・」と泣きながら、サスケのふるまう日光で焼かれた野菜を美味しそうに吸ってから、シンゾーに残った食材を運んで与えた。シンゾーは深い傷のためわずかしか食事が出来なかった。食事中の基本は黙食であった。カメムシ界にあっても、呼気の飛沫が原因となることが多い謎の感染症が流行していたからである。その感染症の名をカロナと言った。

 黙食を終えてシンゾーがどうしてここに来たのかマッチ箱の中から小声で語ろうとしたが、サスケは「ちょっと待ってな、それは夕方でもいいか?」と制した。いつもの忍術の鍛錬があるからとサスケはシンゾーとスイゾーを置いて茂みの中に消えていった。シンゾーとスイゾーはまだ傷の痛みが癒えてなかったためマッチ箱の中で休むことにしたが、昼は大雨と落雷がすさまじく、サスケは大丈夫なのかと何度か心配になった。サスケは夕方にずぶ濡れになりながら帰ってきた。宮崎産の高級マンゴーの皮を持って帰ってきた。「どこでそのようなものを?」スイゾーが飛び起きて驚愕の顔をすると、サスケは言った。「これ吸って元気になってから話を聞こう。これはスーパーというところで収穫したもんだ。気にすんな」スイゾーは震えあがった。スーパーと言えばスーパーマーケット。虫をおびきよせる要塞のような機械があり、近づくのは最も危険な場所のランキング10位にいつもノミネートされているところだったからである。サスケは髪も髭も伸び放題、自由なフーテンのようでワイルドな暮らしを愛するカメムシだったが、スイゾーは目が輝かせながら、これまで会ったカメムシにはない優しさをサスケに感じていた。スイゾーはサスケを見習い、まずは、自分より傷が深いシンゾーにマンゴーを吸わせた。シンゾーが息をふきかえし、吸い終えて深いお辞儀をすると溜まった涙と汗と血が床にこぼれ落ちた。マッチ箱の家の隙間からの雨上がりに満天の星が広がる夜のことだった。

#06 Kamemushi Rider "hot water"

 その晩の夜更け、スイゾーは熟睡していたがシンゾーとサスケは目を覚ましていた。スイゾーは、ことの状況をサスケに話し始めた。サスケは沈黙して耳を傾けていた。スイゾーの話によると、カメムシ界でも広がったカロナの感染症で全国的なカメムシの生態系も大きく変わったとのことであった。人間界が少子高齢化であったが、カメムシ界では深刻な女子減少男子増加という現象があり、スイゾーとその妻、サスケの妹であるサルコとの間に、アカリとウポポという2人の娘がいるが、アカリの美しさが天下諸国のカメムシに知れ渡っており、いまは病の床にあるサスケの妹・サルコとともにアカリはカメムシに見つからぬよう、ものすごく山奥の秘境の洞窟に隠れて暮らしていると言う。ウポポが生まれて間もないころには、カメムシ界では深刻な女子減少男子増加が急激に顕著になったころでありウポポもアカリとともに美しい娘であったが、シンゾーは生まれて間もなくウポポに忍術を教え、まわりには男子に見えるよう育ててきた。ウポポは自由に外を出歩き回れるが、アカリはサルコの看病をしながら身を守るため洞窟暮らしをしているという。

 そんな最中、カメムシ界の男子増加により、アカリを嫁にしたいと47都道府県のカメムシの親玉たちがシンゾーのもとに使者を送ってきたが、シンゾーはアカリの気持ちを大事にしたいとの理由から断り続けた。アカリには思い人がいるという。黙って引き下がる使者たちもいたが、「断られたら殿に申し開きが出来ぬ」と武力で迫るカメムシもいたという。「殺めたのか?」とサスケが聞くと、「そこは拙者も霧隠家の者。なんとか逃げおおせた」とシンゾーは答えた。1匹にひとつだけ、そのカメムシの個性を生かした忍術が伝承されるとの掟があり、スイゾーは「ドリルの術」という忍術の使い手となっていた。急激に自分の体をドリルの形に変えて穴をあけ入り隠れることが出来たが、あくまで護身のための忍術であり、生き物には穴をあけることは出来ない忍術の型であった。シンゾーが話を続けようとするとスイゾーが目を覚ましていて「そこからおいらが話してもいいですか」とシンゾーに尋ねた。「そうじゃな、ここからはスイゾーの方が詳しい」とシンゾーは答えて、ため息をついた。シンゾーは「アカリとウポポ、サルコが心配だ」と目を閉じながらつぶやいた。スイゾーは尊敬するサスケとシンゾーの前で横になりながら話すのは失礼と心に思い、布団から起きて話そうとした。サスケが「スイゾー、まだおまえも傷が癒えてないから横になってゆっくり話すがよい。あとな、酒は傷に響くから、こないだの薬草入りの白湯はどうじゃ?」と言った。スイゾーとシンゾーは同時にこう言った。「あれは、大丈夫です!」スイゾーとシンゾーは強く断った。苦くて猫臭かったからである。しかしサスケはこう答えた。「大丈夫なんじゃな、よかったよかった!もっと作ってやろう!」スイゾーとシンゾーはサスケに逆の意味にとられたが返せなかった。サスケが大量の猫の爪を煮込む中、シンゾーとスイゾーがサスケのもとにくるまでの話が続くのであった。

#07 Kamemushi Rider "sekigahara"

 続いてスイゾーが語りだした。「サスケの兄貴もご存じかと思いますが、この現代にカメムシたちの関ヶ原の合戦がまた起こったんです」と。するとサスケが驚いた表情で「世の中カロナが大変な状況なのに、戦じゃと?!」と。スイゾーとシンゾーは目を見合わせ「いま初めて知ったんですか?」と尋ねた。サスケは頭をかきながら「すまぬ、うとくてのぉ。なにせマッチ箱の家で風に飛ばされながら生きてきたから、近所に住むカメムシの話をすこし耳にするぐらいじゃった・・」とつぶやいた。スイゾーは続けた。「我ら兄弟も巻き込まれて関ヶ原の合戦に参戦し、シンゾーの兄貴は侍大将だったからおいらも鼻が高かったんだけど、シンゾーの兄貴が戦の最中に知ってしまった事実があって・・」そこでシンゾーに目を向けるとシンゾーは辛そうな表情で話し始めた。「両軍が争っている理由が、実は勝利した方の総大将がアカリを嫁にする権利を有するとのことで争っている、と。父であるわしは何も知らずに侍大将で部下を率いて戦うのがバカバカしくて、待ち伏せ作戦をしているときに、わしの部隊のカメムシをそのまま残し、トイレに行くふりをしてスイゾーとともに逃げ出したんです」そこで傷の重いシンゾーを思いやり、スイゾーが続きを語りだした。「わしは侍大将のシンゾー兄貴の活躍をずっと願ってきたから敵前逃亡にも驚いたし、アカリを嫁にするための戦というのも敵の陰謀でのデマ情報じゃないか?あるいは、水だけ飲んで毎日何百匹ものカメムシを倒して前に進むような暮らしがずっと続いていたのでシンゾー兄貴もついに疲れたからそう思ったのか?とも思いました」と。続けてシンゾーが「サスケの兄貴にかくまってほしいからきたというのではなく、この先どうしていいのかを教えていただきたくて来たんです。サスケの兄貴の妹サルコも今は重い病となりどう治癒していいか医者もお手上げな状況。アカリはこのままではいずれ隠れ場所も敵に悟られ関ヶ原の勝者の総大将に無理に連れていかれることに。隠れ場所を知る我々が追手のカメムシに付け狙われてきたこともあり、アカリやサルコを守りに隠れ場に向かうより我々よりもお強いサスケの兄貴のお知恵をお借りしたい、と。ご迷惑をかけぬよう長居は無用とも心得、お知恵をお聞きしたらスイゾーとすぐに去ろうと話してここに参りました」と語った。サスケは、驚くべき質問を返した。「おめえら、関ヶ原から来たのか?あんな遠いところから?」と。

 シンゾーとスイゾーは心の中で「え、そこ~?」と叫んだ。サスケは続ける。「関ヶ原って言ったら岐阜県じゃろ?そこから宮城県までカメムシどうやって移動するの~?」と。スイゾーはやきもきしながらサスケに返した。「スマホってもんがあって、これで地図を調べれるんですよ。それでその方向に向かう人間が乗る車ってもんが定期的に道路を走ってて、それに乗っかってここまで来たんです。途中でスマホの充電がなくなり、宮城ナンバーの車を探して乗っかってここまで来たんです!」と。サスケは目を丸くして驚いた。「いやあ、ぶったまげたっ!スマホってもんで調べれるんなら、もう忍術なんかいらねえべ~!?」と。シンゾーとスイゾーは目を合わせて心の中で言った。「サスケ兄貴は、そこから説明が必要なのか・・・」と。するとサスケが目を光らせて言った。「面倒なことはわからねえ。これからどうしていくのが一番いいのか、おいらのじさま(祖父)の白雲斎のとこに行って相談してみっか!」と。シンゾーはおののいた。忍術の名人で、カメムシ界のレジェンド・カメムシ仙人と呼ばれるお方だったからである。サスケは話した。「白雲斎は長野の鳥居峠におる。おめえらの言うとおりなら長野ナンバーの車を探して乗ってきゃあ、すぐだな!明日、行こう!」と。それから3匹は数日かけて連携し、長野ナンバーの車をサスケの暮らす村の外れで見つけた。「これから旅の始まりじゃ!さあ参ろう!!」とサスケの号令で3匹は飛び乗った。その車は数日、まったくそこから動かなかった。

#08 Kamemushi Rider "helper"

 車が動き出すまで、かなりの時間があったので、3匹は暇だった。暇を埋めるため長野への旅を想定し、旅の準備の時間を作って過ごすことにした。傷が癒えてきたこともあり、サスケの優しさからシンゾーとスイゾーのリハビリをかねての配慮なのだということを感じて、2匹は元気が戻ってくることを実感していた。しかし、シンゾーやスイゾーの思い描く優しいサスケはなく、サスケの準備に向けての指示は過酷なものだった。カメムシが車に引っ付いて長く旅するのは大変だとの観点からシンゾーには「ドリルの術」で車に穴を開け各自の部屋を作るようにとの話があった。1日目。サスケが地面に車の大きな絵を描いて、目立たない場所はどこか?を調査し、車バンパーの裏に穴を開け、部屋を作ることにした。2日目。穴あけに熱中し、何か所か間違えて貫通した。3日目。サスケの部屋完成。サスケは中に入ってニヤーっと笑った。4日目。スイゾーの部屋完成。スイゾーも中に入ってにこにこ笑い、喜んだ。5日目。シンゾーの部屋完成。シンゾーばかり働いており、自分の部屋で休もうとすると、サスケが翌日の計画を話した。「共同で使えるリビング、台所、トイレ、風呂、廊下も必要だ。シンゾー、ぬかりなく頼むぞ」と。6日目。シンゾーの頑張りで共用で使える茶の間、台所、トイレ、風呂、廊下が完成。7日目。もう体力的に限界がきたシンゾーは部屋でゆっくり休んだ。

 サスケとスイゾーはシンゾーがドリルで穴あけしている間、サスケは指示を出すだけだったが「疲れた疲れた」と言って部屋で休み、スイゾーも「疲れた疲れた」と言って部屋で休んだ。シンゾーは少しいらっとした。遊んでいるかのようなスイゾーはサスケに憧れ、真似ばかりしていた。このままでは悪影響が出る。スイゾーがこの一週間していたのは、シンゾーが全身汗だらけでドリルを開けたあと、スイゾーが唯一の特技としている忍術『ガード』を使って手伝うだけだった。この忍術は、透明なガラスのような見えないガードを作り、敵から身を守る忍術であったが、穴が開いたところにスイゾーが「ガード」と言ってガードを作るだけの作業は、穴あけよりも明らかに楽勝な作業だった。例えれば、携帯電話を作る人、買って保護フィルムを貼る人ぐらいの労働力の差があったのだ。シンゾーが歯ぎしりをしながら寝ている時、芋虫のおばあちゃんが車の真下に現れた。「ごめんくさーい」との声を聞き、起きていたサスケは部屋から顔だけ出し「なにか用か?」と聞くと、芋虫のおばあちゃんが地面からサスケを見上げて言った。「みなさん長野に行くの?私も長野に連れて行って♡!長野で、黒部ダムを死ぬ前に一回だけ、見てみたいのよ!」と。シンゾーとスイゾーはその声を聞き飛び起きて、芋虫のおばあちゃんのいる地面に見えないようにしながらサスケに断るよう全力で首を振った。シンゾーとスイゾーはカメムシ以外の他の虫が苦手だったからである。サスケは言った。「芋虫ばあちゃん、いまから求人だすから、長野に行く道中、人件費は払えんが、寮母として飯作りの担当をするというのはどうじゃ?」と。シンゾーとサスケは、例えればZOOMの会議で腕で✕をするかのように✕を両腕で作ってサスケに向かって反対と猛アピール・猛反対したが、サスケは部屋で芋虫のおばあちゃん用に求人の紙を手書きで書き、部屋から即席の求人広告を芋虫ばあちゃんの方に落とした。

 そこにはこう書かれてあった。「寮母募集。報酬は長野までの旅費無料。業務内容は主に食事提供。長野到着まで住み込み勤務」と。芋虫のおばあちゃんはその紙を手に取り、嬉しそうにたくさんの足で小躍りした。カメムシ以外の虫が嫌いなシンゾーとスイゾーは「なんでこうなるの~」と嘆きながら布団に顔を隠したが、世話になったサスケには逆らえなかった。芋虫ばあちゃん(とサスケが呼ぶのでこれからはそう呼ぶ)の部屋をシンゾーはいやいやながら、大きな芋虫ばあちゃん専用の巨大な部屋と巨大な台所を作った。3日かかった。落成式の時、あいさつを求められた芋虫ばあちゃんは伝記映画で偉人を語る一般人のコメントのようにこう言い放った。「あたいの得意料理?知りたい?特技はね、カメムシの焼肉定食!」。芋虫ばあちゃんは3匹の前で冗談で言ったのだが、シンゾーとスイゾーは真剣に戦闘体制の構えをとった。2匹はサスケに「だから絶対に同乗させるべきではなかった!!」と叫んだが、サスケは「では、こいつらを頼む!」と指をさしながらアメリカンジョーク風に返した。芋虫ばあちゃんの目が光り一瞬カオスな落成式となったが、芋虫ばあちゃんが「もう、社長ったら!」と言うので、シンゾーとサスケは大いに首をかしげた。芋虫ばあちゃんはサスケを社長だと呼び、シンゾーとスイゾーを「社員さん」と呼ぶのだ。「さん」づけに少し距離感を2匹は感じていた。芋虫ばあちゃんは笑えない冗談をよく口にするほうだったが、飯炊きについてはかなり熟練している様子だった。芋虫ばあちゃんが落成式の料理披露で「ごはん出来たわよ!」と料理を運んでくると3匹は目を輝かせた。それまで拾ってきたようなものを食べて食いつないできたが、目の前にいろとりどりのご馳走が並んでいるからである。3匹が一斉にご飯を口にするとシンゾーとスイゾーは「うげーっ!」と言ってのけぞった。サスケは「うまいっ!」と言ってのけぞった。シンゾーとスイゾーには、喉を通らないような毒の味がしたが、サスケは何度もおかわりをして満足しながら食事を楽しんでいる。スイゾーは命からがら地面を這いつくばってゴミ箱から求人の紙を拾い上げシンゾーに手渡した。シンゾーが丸まった求人の紙を開くと、そこにはこう書かれてあった。「食材は節約と世の中の環境リサイクルのためゴミを使用」と。シンゾーとスイゾーは芋虫ばあちゃんの食事は遠慮することにし、自力で調達することをサスケに進言した。それを聞いて芋虫ばあちゃんが傷つかないように「修行の一環でそうすることにした」とサスケは芋虫ばあちゃんに告げた。芋虫ばあちゃんは社長の言いつけとのことですぐに了解した。シンゾーとスイゾーは命拾いしたと心から安堵した。その落成式をリビングで終えようとしていた瞬間、大きな爆撃のような音がして全員が耳を塞いだ。人間が車の扉を開けて、長野ナンバーの車両に乗り込んでエンジンをかけたのだ。

 いよいよ出発の時が来たのである。車には成人の男性と女性、小さな男の子と女の子の4名が乗り込もうとしていた。何か荷物を急いで車内に入れようとしているところだった。サスケは「あそこに飛び乗れ」とスイゾーに指示した。スイゾーは女の子の手に持つテディベアのぬいぐるみに飛びついて車の中に乗り込んだ。「そんな危険すぎる!そんな酷い任務をスイゾーになんでじゃ~!?」とシンゾーはサスケの襟を掴んだ。しかし、シンゾーはスイゾーが親指を上にあげイイネマークをしながら満面の笑みで車内に入っていく様子を見てサスケの襟から手を離した。「人間が車を出そうとするときに車内に入って、情報と食料を集めてくるように」とサスケがスイゾーに指示を出していたのである。シンゾーが本気でドリルで部屋を作るため穴を開ける中、そのようなやりとりがあったことをシンゾーは知る由もなかったのである。「しっかりつかまれ!」とサスケが吠えると、大きな車が巨大空母のように地面を走り出した。芋虫ばあちゃんはなぜか「ワクワク」と言って喜んだ。シンゾーは走り出して間もなく車酔い、サスケは揺れをものともせずに部屋でくつろぎながら忍術の本を読んでいた。スイゾーはテディベアにひっつき、「サスケの任務を全うし、かっこいいところを見せつけたい」と心の中でつぶやいた。テディベアを抱きかかえる女の子が「この人形くちゃい!」と言ってトランクにテディベアを放り投げた。スイゾーが空中で「ガード」と唱える。ガラスのようなガードが水平に現れ、スイゾーはサーフィンのように飛び乗った。彼はシンゾーがドリルをしている間に体力を温存し、完全に元気になっていた。サスケの作戦だったのである。

#09 Kamemushi Rider "high way"

 サスケの作戦は素晴らしかったが、スイゾーは任務を遂行し始める前になんだか眠くなった。車の中がとても心地よかったからである。シンゾーと共に関ヶ原からサスケのもとへ車につかまって宮城県まで移動したときはあまりに過酷な旅だった。しかし、今回初めて人間の乗っている空間にサスケの指示で入ることに成功したが、エアコンはよく効いており、カーラジオからは心地よく、ソニーロリンズのジャズが流れ、スイゾーはすっかり夢見心地となっていた。サスケから「人間が車を出そうとするときに車内に入って、情報と食料を集めてくるように」との指示があった時は、なんと恐ろしい任務かと思ったが、車内では運転者以外の助手席に乗る女性、後部座席に乗る男の子と女の子はすやすや寝ている。シンゾーは窓ガラスに貼りついて車から見える景色を楽しんでいた。出発の時は「仙台」という看板が見えたが、シンゾーが眠って目を覚ますと「白石」、ふたたび眠って目を覚ますと「福島」という看板が見えた。食料の調達に車の天井に移動し、ドローンのように天井に貼りついて歩き回って車内を見回したが、食料は意外と簡単に調達できるトランクに置いてあった。お盆のお供え物の桃、柿、梨がカゴに入っていた。透明なラップでくるんであるが、スイゾーの忍術「ガード」で透明な板を出し、縦に切り込みをいれると簡単にスイゾーが入れるほどの穴を開けることが出来た。みんなの分の食料を運ぶのも、皮を少しづつラップを切る時と同じ要領で切り込みを入れると何枚か皮を取ることが出来た。スイゾーは食料の荷造りも済ませ、次に人間がインターで休憩をとる時に窓の隙間か扉の空いた瞬間に外に脱出できるよう手際よく脱出に利便性のよい後部座席の型の部分に乗って待機していた。

 外の景色に「宇都宮」という看板が出てきた時に運転席の人間がでかい声でこう言った。「餃子、食いてえなあ!」すると呼応するように助手席の女性も、後部座席の男女の子供も「餃子!餃子!餃子!」と、何か祭りが起きるような勢いで車内に歓喜の声が響き渡った。スイゾーは食料として果物の皮の収穫には成功したが、まだ「情報」を収集できていないことと、「餃子」という食べ物がどうしても気になって、どうしようか迷っていた。サスケの指示によれば「次のインターまで」との約束でもあったが、本当は「餃子」が気になっていたのだが「情報」がまだなので、サスケの指示を破って次のインターで外に脱出してもいいのではないか?との考えが湧いてきた。しっかり情報と果物の他に、謎の食べ物「餃子」を持って脱出できればサスケの兄貴にも褒めてもらえるだろうとスイゾーはたかをくくった。「宇都宮」のインターに到着し、人間は餃子を買いに車を降りた。本来、そのタイミングでスイゾーは降りるべきだったが、車を降りずに後部座席の型の部分にじっとしていた。人間たちが楽しそうにもどってくる。スイゾーは餃子をいただこうと楽しみにしていたが、人間たちが餃子を開封してかぶりつこうとした瞬間、今までに嗅いだことのない凄まじい臭いに悶絶して目を回しながら、スイゾーは仰向けになって足をばたつかせた。次の瞬間、人間たちは言った。「この餃子、美味いじゃないか~!もっと買ってくるか!」運転席の男が追加の餃子を買いに走った。スイゾーはあまりにもすごい臭いに、薄れていく意識の中、子供のころにスキーをして遊んでいたころの夢を見ていた。霧隠家の当主・サイゾーが「もっと遊びたい!」とスキーに夢中になるスイゾーをクールにいさめた。「スイゾー、スキーは”あともう1回”と思った時が潮時なんだ。夕暮れにもう1回を欲張る間に夜になったら危険だからだ」と。スイゾーはこれまでに嗅いだことのない餃子の臭いをかいで完全に気を失った。

 おかわりの餃子を買ってきた人間が車内に戻り、さらに追加の餃子を開封して車内のみんなに餃子を回した。1匹のカメムシの臭いなど全く問題にもならないほどの恐ろしい臭いがさらにスイゾーの命を脅かしていた。食べ終えても人間は換気をまったくせず、エアコンを最強にかけて「餃子、サイコー!!」と言って、車のエンジンをうならせ、高速道路を凄まじい速度で走りだした。その時、人間には目では追えない速度で、エアコンの吹き出し口からサスケが車内に入ってきた。スイゾーを助けるためであったが、ものすごく怒っていた。全身から水蒸気のような煙を噴き出しているパワー全開のサスケが、気を失っているスイゾーの隣に立っていた。

#10 Kamemushi Rider "food loss"

 一行は無事に長野に着いた。以下は長野に辿り着くまでのシンゾーの回想である。シンゾーは、なかなか帰りの遅いスイゾーを心配していたが、ドリルの穴あけですっかり疲れてしまい、すやすや眠っていた。宇都宮のインターに車が入ったところで目が覚め、ここでスイゾーとサスケが交代と聞いていたのだがなかなかスイゾーが帰ってこない。サスケが「車内の様子を見に行く」と行って、走り出した車のエアコンの排気口を逆流して飛んでいく姿を見た。シンゾーはサスケの得意とする忍術は何なのかまだわからずにいたが、身体能力が非常に高く、速度やジャンプ力も並大抵のカメムシでは無理な領域に達していることは、よくわかっていた。走り出した車の中で何が起きているかはわからずでいたが、サスケが行ったのだからスイゾーは無事だろう・・お腹がすいたから芋虫ばあちゃんに何か作ってもらおうかなと食堂に行ったら、芋虫ばあちゃんはテレビをかけたまま、いびきをかいて寝ていた。職務怠慢だなあと心の中でつぶやきながら、シンゾーは台所で食材の入った段ボールをあさると、サスケが推奨するフードロスで賞味期限が完全に切れた食材の中に、アルファ米と書いてある袋が見つかった。調理の方法を知らないシンゾーは袋をあけてポリポリかじりながらTVを見ていたが、なかなか好みの味だった。TVのチャンネルを回すと、カメムシの歌手が歌っている。最近の流行はよくわからないが、シンゾーは懐メロが大好きだった。TVコマーシャルで「カメムシ青汁」の商品が紹介されシンゾーがあくびをしていると、サスケがものすごい速度でシンゾーをかかえて戻ってきた。そして、とても怒っていた。シンゾーは気絶しているスイゾーを見て驚いた。全身ホコリとゴミだらけとなって、かろうじて息をしているような状況だったからである。サスケに状況を聞くと、スイゾーはインターで交代するはずだったのに交代せず、人間の買ってきた餃子という謎の食物の臭いにやられ気絶したという。

 なぜ、全身ホコリとゴミだらけになったのかというと、サスケがスイゾーを安全な場所に移動し餃子をいただきに宇都宮餃子の袋に飛び込んだところ、人間が「変な臭いがする」と言って、走行中の車の中のあちこちを小さな掃除機で吸い込み始めたという。サスケは餃子の袋の中でたらふく餃子を食べていたが、人間は「変な臭いが消えない。どこからこの臭いがするんだ?」と言って、すみずみまで掃除機をかけまくり、ついにスイゾーが掃除機に吸い込まれたのだという。サスケはシンゾーに報告しながら「人間の奴らめ!」と怒りをあらわにしたのだが、シンゾーのアルファ米に手を伸ばして目を覚ました芋虫ばあちゃんが、シンゾーの心の内を代弁してこう言った。「それは餃子のそばにいたあなたが原因じゃないの」と。しかしサスケは聞こえてなかったのか、その後のスイゾーの救出劇について語り続けた。スイゾーは掃除機の中に吸い込まれ、ホコリとゴミの中でまさに殉職寸前となっていた。サスケは餃子を満腹まで食べた後(ここで芋虫ばあちゃんは「先に助けるべきよね、シンゾーさん」とつぶやいた)、餃子の袋から飛び出てスイゾーの異変に気がついた。そこで自分が怒った理由を思い出した。

 そこでシンゾーは「あ!!!」と大声で叫んだ。シンゾーは思い出した。自分の家系の霧隠家とサスケの家系の猿飛家が同じ殿様に仕えていたのに、それぞれが張り合うようになるキッカケになった先祖の話を。「サスケ殿、霧隠家はその名の通り、霧に隠れるようような忍術を得意とし、作戦については主に現場判断に委ねる方法をとってきた。猿飛家は真正面からぶつかり、作戦については主に任務遂行を貫徹する方法をとってきた。スイゾーは霧隠家の習慣で、現場判断で次のインターも自分が担ったほうがいいのだと思い込んだのだ。サスケ殿はそのことにお怒りになったのだ・・・・!」と。シンゾーはサスケに「すまぬ!すまぬ!かたじけない!!」と何度も詫びた。サスケは「いや、俺が怒ったのはそこではない」と答えた。シンゾーが「では、なぜ怒ってるんですか?」と聞くと、サスケは言った。「手柄より自分の命を大切にすべきだろ?」と。シンゾーは黙ってスイゾーの介抱に入った。サスケの怒りは優しさからくる。この先、どんな旅が待ち受けているのだろうか?シンゾーが外を眺めると「長野」という看板が道路に何度も現れた。芋虫ばあちゃんの歓喜の声が遠くから聞こえた。「今日は腕をふるってご馳走にするわよ~!」と。シンゾーは、何回も食事を作ってるかのように芋虫ばあちゃんは言うのだが、芋虫ばあちゃんはまだ1回しか食事を作ったことがないよなあ?・・と心の中でつぶやくのであった。シンゾーの横顔は古き懐メロのように、どこか男の哀愁が漂うのであった。

#11 Kamemushi Rider "go to travel"

 それから一行は山道を静かに登っていた。途中、車から降りるのに目を覚ましたスイゾーと懐メロの表情をしたシンゾーと、やたらと餃子の臭いを放つサスケの3匹で芋虫ばあちゃんを抱え、走行中の車から路上に不時着するまで命がけの飛行はあったが、サスケの怪力ぶりはすさまじく目を覚ましたスイゾーと懐メロの表情をしたシンゾーが重くて腕の力を弱めても、サスケ一人で芋虫ばあちゃんをつかんだまま飛行しているような状態に2匹はとても驚いていた。まだサスケの忍術の特技が何であるかは二匹にはあかされていない。しかし、秘めたるものの底知れぬ力を二匹はこの道中の間もずっと肌身で感じているのであった。白雲斎のいる忍術の里である鳥居峠まであと数キロというところで、一行が休憩している時にシンゾーはサスケに尋ねた。「スイゾーを車中につかわした時たしか情報を集めてくるようにとサスケさんは言ったそうじゃが、どんな情報を知りたかったのでござるか?」と。サスケは拾った蛇イチゴをほおばりながら「人間たちがどこに向かおうとしているか、知りたかったのじゃ」と。シンゾーは「しかるにスマホってもんがカメムシ界にもあって、長野に向かうルートでいまどこにいるのかは手元でわかるんですってば」と得意気に言った。サスケは「そこじゃないんじゃ」と一言だけ言って、雨が降り出しそうになったので一行を大きな葉っぱの下に誘導した。

 雨は一気に強くなり、一行は葉っぱの上に移動した。大きな水たまりが地面に出来そうになっていたからである。自然の中を放浪してきたサスケは天候、風向き、食料のありかなど、天性の勘がとても鋭かった。そこからの道中はカメムシの足で数日かかったが、一行がお腹をすかせてもうダメかという時も土中にある芋を掘り当てて飢えがしのげたり、へこたれそうになるとサスケがすさまじい速度で木に登って樹液を両手にくっつけて降りてきてみんなを喜ばせた。白雲斎の里につく前に芋虫ばあちゃんは芋虫ばあちゃんが行きたかった「黒部ダム」の標識を見て、「私はあっちに行くわね、あなたたちとの旅は楽しかったわ」と言って去っていった。3匹は白雲斎のいる鳥居峠に辿り着いた。うっそうとした不気味な夜の森の中に忍術の里と呼ばれるカメムシの集落がぽつんとあった。ひときわ家の中が光り輝いているかやぶき屋根の家があった。サスケが「じっちゃん、ひさしぶりじゃのぉ~」と古い木戸を開くと、白雲斎の頭が光っていた。シンゾーとスイゾーは目がくらんで、しばらく目が慣れるまで時間がかかった。目が慣れてよく見ると白雲斎はあぐらをかいて座ったまま背中を向けて熟睡しており、3匹が家の中に入っても完璧に眠って気がつかぬままでいた。

 さすがにサスケの祖父とはいえ勝手に家に入るのは申し訳ないと考えたシンゾーは「白雲斎様、初めまして!」と大きな声であいさつをすると白雲斎の息が急に止まった。驚かせてしまい、自分が絶命させてしまったのか?とシンゾーがあわてると、白雲斎はブシューっと大きな息を吐いて、熟睡し続けていた。サスケは言った。「じっちゃんは睡眠時無呼吸症候群なんじゃ。おそらく朝がくるまで目覚めず熟睡してるに違いない。みんなも旅の疲れがあるじゃろうから、じっちゃん寝てても気にせず適当に風呂入って飯食って寝よう。明日じっちゃんとゆっくり話そう」と。シンゾーもスイゾーもその言葉に従い、サスケとともにその夜は白雲斎の家でゆっくり休むことにした。ずっと車から降りてから数日は野宿で披露していたからである。ホッと安堵してサスケがひいてくれた布団にくるまりシンゾーとスイゾーは安眠した。そしてあくる朝、目が覚めると芋虫のように布団ごと縄で縛られて木から吊るされた状態でシンゾーとスイゾーは目覚めた。「サスケさんは?」とスイゾーが不安な表情であたりを見回すと、地面で薪割をする白雲斎が「狼藉者め、目を覚ましよったか?!」と言った。シンゾーは「まさかサスケさんもグルで我々をはめたのか?」とスイゾーに小声で言った。

 スイゾーは首を振って、上を見るようにシンゾーに目で合図した。自分たちよりも高いところにサスケも布団にくるまり吊るされていたのである。「サスケさん!サスケさん!起きてください!!!」と二匹が一斉に吠えたがサスケは吊るされたまま安眠し、完璧なまでに熟睡している。白雲斎は「薪が出来たわい。これからおまえらをいぶるから、人の家に勝手に入ったわけを語ってもらおうかのぅ?」と楽し気に話した。シンゾーとスイゾーは足をばたつかせながら、サスケが目を覚まし孫であることを語らないと助からないと大声で「サスケさん!サスケさん!」と名前を何度も連呼した。サスケは息をしてなかった。煙がどんどん下から舞い上がってくる。ブシューーー。シンゾーは吠えた。「サスケさんも睡眠時無呼吸症候群なんじゃないですか~」と。白雲斎が「え、サスケ?」と言った瞬間、サスケは白雲斎の頭の上で鶴のポーズをして立っていた。白雲斎はにっこり笑って言った。「わしの孫、サスケじゃな。よく子供のころはわしの頭の上で鶴のポーズをしたもんじゃ!ひさかたぶりよのぉ、サスケ!!」と。シンゾーとスイゾーは下からの煙にいぶされ意識が遠のき、そのまま眠ってしまった。目が覚めると白雲斎の家で、なつかしい霧隠の家のウポポがシンゾーとスイゾーのいぶされた顔を手ぬぐいでふいていてくれた。遠くで白雲斎とサスケの楽しげな会話が聞こえる。こうして一行は無事に鳥居峠にある忍術の里・白雲斎の家に辿り着いたのである。ここで3匹はさらに特別な修行を積むことになる。

#12 Kamemushi Rider "war is over"

 白雲斎は気さくなおじいさんだった。シンゾーとスイゾーはすっかり居候が板につき、炊事洗濯掃除を喜んで手伝い、楽しく過ごしていた。数日ゆっくり過ごしてウポポが持ってくるスイカをオヤツにしていると白雲斎が、当然の質問をシンゾーにした。「さて、君らはなんで我が里に来たんじゃ?」と。シンゾーは完全に言いそびれていたのだが、白雲斎の家があまりに居心地がよく、本題に入るのにためらっていた。本題に入れば、このゆったりとした田舎の山荘での楽しい時間が消えてなくなりそうだったからである。しかし、スイゾーは「もう話してほしい」とシンゾーにアイコンタクトを送っていた。シンゾーに忍術を教わったウポポも、シンゾーに白雲斎には正直に理由を打ち明けてほしいとアイコンタクトを送った。シンゾーはことの状況を白雲斎に話し始めようとしたが、白雲斎は「いーーーーや、もうわかった」と言葉をさえぎった。サスケが到着時に白雲斎の頭の上で鶴のポーズをした瞬間、カメムシ界で広がったカロナの感染症で全国的なカメムシの生態系も大きく変わり、人間界が少子高齢化であったが、カメムシ界では深刻な女子減少男子増加という現象となり、スイゾーとその妻、サスケの妹であるサルコとの間に、アカリとウポポという2人の娘がいるが、アカリの美しさが天下諸国のカメムシに知れ渡っており、いまは病の床にあるサスケの妹・サルコとともにアカリはカメムシに見つからぬよう、ものすごく山奥の秘境の洞窟に隠れて暮らしている、との話をサスケにしたシンゾーの表情まで脳に自動的に再生され、わかっていたのだという。

 カメムシ界の男子増加により、アカリを嫁にしたいと47都道府県のカメムシの親玉たちがシンゾーのもとに使者を送ってきたが、シンゾーはアカリの気持ちを大事にしたいとの理由から断り続けた。アカリには思い人がいるという。黙って引き下がる使者たちもいたが、「断られたら殿に申し開きが出来ぬ」と武力で迫るカメムシもいた(#06 Kamemushi Rider "hot water"、#07 Kamemushi Rider "sekigahara"参照)。そこまで白雲斎に伝わっていることをシンゾーは知り、「白雲斎殿、この先どうしたらよいか、解決策を教えてほしいとのことで我らはここに来た!」とシンゾーは言った。すると白雲斎は「いまのおまえたちには無理じゃ」と答えた。「それはなんで?」とスイゾーが口を挟むと、白雲斎は驚くべきことを語りだした。その内容とはこうだった。まず、シンゾーとスイゾーはことの重大さをまるでわかっていない。カメムシが関ヶ原で戦をしているのはアカリを嫁にとるためだけで争っているのではない、とのこと。それと関ヶ原の合戦はとっくに終わり(シンゾー、スイゾー、サスケが白雲斎のいる里にくるまで時間がかかりすぎた)、東軍が勝利しているとのこと。西軍は敗北しあちこちに逃亡している状態であることが告げられた。

 シンゾーは「それではアカリは?」と鬼気迫る表情で白雲斎に聞き返した(一同はさっきまでスイカを食べてくつろいでいただろう、との視線を送っていた)。白雲斎は「アカリは無事じゃ・・・じゃが、アカリの”思い人”の命が危ない」と答えた。誰もアカリの思い人が誰なのかわからない。白雲斎は静かに告げた。「その”思い人”が本来カメムシ界の王となるべきカメムシなのじゃ」と。かやぶき屋根の屋根につづく木に寝ころんでいたサスケが口を開いた。「じっちゃん、それは東軍か?西軍か?」と。白雲斎は言った。「いまのところどちらでもないが、東軍の王も西軍の王も倒さねばその”思い人”が天下人になることはなかろう」と。スイゾーは「じゃ、その”思い人”ってのが天下人になればこの世は安泰なんでしょうか?」と。白雲斎は深くため息をついた。「そう簡単に言うな。いま、その”思い人”は、封印で洞窟の中に閉じ込められておる。その封印を解くのは並大抵のカメムシじゃ無理なのじゃ」と。シンゾーは言った。「どのようにすれば封印を解くことが?!」と。白雲斎は大きな布を広げた。そこには墨でやたらとへたくそな絵が描かれていた。サスケは「この絵で何がわかると言うのか?」と聞いた。白雲斎は「この絵は・・・・」と説明しようとしたところで立ち上がりトイレに行った。サスケ、シンゾー、スイゾーは台所で料理をしているウポポに尋ねた。「白雲斎は事実を話しているのか?」と。ウポポは3匹に向かって答えた。「じっちゃんの言ってることは本当よ。でも”思い人”の封印を解くのが本当に厄介なの・・・」と。

 白雲斎がトイレから大声で吠えている。「やっぱりおまえらじゃ無理じゃ!修行が足りなさすぎる!」と。サスケ、シンゾー、スイゾーは『修行』をやらないと先に進めないパワハラ感を感じていた。ウポポも、グルであることを直感的に確信していた。

#13 Kamemushi Rider "mask"

 白雲斎が「どうじゃ、修行をするか、せぬか」とサスケ、シンゾー、スイゾーに問うのはその晩のことであったが、3匹の答えは定まっていた。「修行をする」と答える前に、修行の準備が整いすぎていたのが明白だったからである。白雲斎が昼間にトイレに行っている間にスイゾーが庭先に出て背伸びをすると、踏み台昇降の台があった。これは修行の器具か、白雲斎の健康グッズなのか、非常に微妙な線であった。踏み台昇降の上に足のツボに効く木の突起物があり、スイゾーは軽く乗ってみた。すると赤く色のついた木の突起物だけが沈み、修行に必要な様々な器具が遠い竹林の向こうにある山の中に地面から姿をあらわした。スイゾーは目がとてもよかった。その器具は修行に必要なものというよりも、拷問でよく使われるような器具だった。スイゾーはただちにシンゾーにそのことを伝えた。次にシンゾーがドリルで床下に小さな穴をあけて覗いてみると地下に部屋があるのがわかった。そこで東軍の忍者たちが花札をしているのが見えた。何を話しているのか舌の動きを見ていると「奴らが修行をすると言ったら修行に見せかけて白雲斎が山に奴らをおびき出し、そこで我ら東軍の大軍勢が奴らを叩くのじゃ」と話しているのがわかった。そのことをサスケに話すとサスケは楽し気に笑った。

 白雲斎がトイレからもどっても、サスケは白雲斎と他愛もない話で盛り上がっていた。その晩、食事をすませた後に白雲斎がウポポに席をはずせと命じ、いよいよ「どうじゃ、修行をするか、せぬか」とサスケ、シンゾー、スイゾーに尋ねた。シンゾー、スイゾーがサスケに視線を送ると、サスケは一行を代表して答えた。「修行をせぬ」と。白雲斎は怒りを目に浮かべながら「そうか、そうか、そうじゃのぉ、まだおぬしらは旅の途中じゃったと、忘れとった。わしも、すっかり年じゃのぉ」とにこやかに微笑んだ。サスケは「明日にはここを立って、面倒なことに関わらぬようマッチ箱の家に帰ることにした。じっちゃん、いろいろ教えてくれてありがとな!」と答えた。白雲斎は「それもよかろう。カメムシの人生は短い。わしのように長生きするのは並大抵じゃ無理なことじゃ。しかし長生きするには敵から身を守ることも大事じゃから、修行をどうか、と話したんじゃ」と言った。目がマジだった。サスケは「じっちゃんのように長生きして、カメムシ界のレジェンドになれたら最高じゃ。でも、おいらはじっちゃんの話を聞いて、あまり興味のわかない世界じゃと思ったんじゃ、東軍とか西軍とか、どっちに転んでも関係なくおいらは自由に生きたいんじゃ」と答えた。白雲斎は「シンゾー、スイゾーはどうするんじゃ?」と聞いた。サスケは突然、白雲斎に低い声で告げた。「じっちゃんをどうしたんじゃ、おい?」と。

 次の瞬間、白雲斎のマスクが剝がされた。シンゾーとスイゾーも席を外すように告げられたウポポをいつの間にかとらえてマスクを剥がした。白雲斎もウポポも、東軍のカメムシに雇われた蟻だった。蟻の忍者は強い。しかし、サスケ、シンゾーとスイゾーは白雲斎とウポポに変装していた蟻を素早く縄で縛り上げ、庭先に放り投げた。異変に気がついた東軍の忍者が地下から飛び出て退却しようとした瞬間、サスケが口笛をふくと、東軍の忍者が一斉に息絶えた。シンゾーは蟻の白雲斎とウポポを見張っていて気がつかなかったが、サスケの口笛で東軍の忍者が一瞬で絶命する様子を見ていたスイゾーは、腰をぬかすほど驚いた。サスケが指をパキパキ鳴らしながら蟻の白雲斎とウポポのもとに詰め寄ってくる。低い声で再度「じっちゃんをどうしたんじゃ?」と、サスケは蟻の白雲斎とウポポに言った。しかし、蟻の白雲斎とウポポは縄で縛られた瞬間に自分たちの作戦が失敗したことを悟り、歯の奥にしこんでいた毒をもってすでに絶命していた。サスケは冷静さをとりもどし、静かにシンゾーとサスケに告げた。「正直、驚いた。白雲斎とウポポ。まったくニセモノだと気がつかなかった。気配すらも完全に似せていた。こやつらは蟻の忍者の中でも相当の下の階級じゃと思うが、それでもこの実力じゃ。これから我らが向かっていく敵は相当なもんじゃろう。こやつらが言うように、わしらも何らかの修行は必要になるんじゃろう。じっちゃんやウポポの命が心配じゃ。このまやかしの忍術の里の先を目指して、ここから先に進もう」と。一行は、本物の白雲斎とウポポを探して、さらに忍術の里の奥地へと進むのであった。

#14 Kamemushi Rider "feke"

 それから一行は何度も何度も偽の白雲斎とウポポのいる偽の忍術の里で同じような目に遭遇しては切り抜けた。ある時は白雲斎がどう見ても太っていて「太ったのじゃ」と主張するが食事の最中に白雲斎に仕立てたマスクの頭頂部が裂けてしまい、偽のウポポが慌てたという珍事件もあったり、ある時は白雲斎がどう見てもマッチョすぎて「鍛えたのじゃ」と主張するが庭でスクワットをしている最中に白雲斎に仕立てたマスクの後頭部が裂けてしまい、偽のウポポは慌てて縫おうとして針が刺さって自爆したという珍事件もあったり、一行は面白いんだが「早く本物に会えないのかなぁ」と正体が暴かれるたび笑い疲れて「またか」とため息をつくようになっていった。30回目の白雲斎とウポポが登場した時は子供が白雲斎のマスクをつけており、ウポポは顔だけウポポだが胴体は男だった。マスクが裂けるのを待たずしてスイゾーがバリアの術でガラス張りにして偽の白雲斎とウポポを閉じ込め次なる忍術の里に行こうとしたとたん、雷鳴がとどろいた。一行があわてて木陰に隠れて大雨に備えているとスイゾーがバリアの術で閉じ込めたガラスを持ち上げて移動してきた偽の白雲斎とウポポが木のそばまでやってきて一行に言った。「すみません、すこし雨もりするようなんでこのガラスの術もうちょっと厚めにかけていただくか、我々はもう貴殿らを襲わないのでこの術を解いてください」と。

 サスケ、シンゾー、スイゾーは「解いて去らせてやれ」と目くばせで合図しあい、スイゾーがバリアの術を解くと、偽のウポポがマスクを外して言った。「皆さんもお気づきかと思うんですが東軍から忍術の里に派遣されたカメムシの人員は、もう我々で最後なんです」と。偽の白雲斎が偽のウポポにしがみついて言った。「おっとう、お腹すいただよ」と。雷鳴はさらに強まり、雨もいっそう激しくなった。サスケは木の幹に大きな穴があったのでシンゾー、スイゾーの他に、この偽の白雲斎とウポポも中に入るように誘導した。木の幹の中で一行が休んでいるとシンゾーは備蓄として持ってきた食料を取り出しサスケの方に目をやった。サスケは偽の白雲斎とウポポにもわけるように目で合図した。食事は拾ってきた蛇イチゴを干したものだったが、偽の白雲斎とウポポは遠慮して受け取らなかった。「みなさん私どもは東軍のカメムシ。こうしてお食事の合間に何を話しても皆さんに信じてもらえはしないでしょう」と。「ああ、そうじゃな」とシンゾーは言った。スイゾーは「だんだん茶番劇のようになってきて、白雲斎とウポポの登場も、またか・・と思うようになってしまったんだよ」と。

 偽のウポポは「最初の刺客は実力のある隊長が先陣を切ったんですが、その後、次長、課長、係長、社員と・・だんだん隊長の真似をして白雲斎さんとウポポさんを真似で演じていったのですが、精度がどんどん落ちてしまって・・・」と答えた。シンゾーは「それでおまえたちは親子のようじゃが、東軍で言えばどんな役職の者なんじゃ?」と。偽のウポポは言った。「役職はないです。社員たちもみんな皆さんに見抜かれたというか自分たちでヘマをして全滅してしまい、私たち親子は・・・非常勤なんです」と。シンゾーは「子供までもか?」と聞いた。偽のウポポは「子供は妻が他界しどうしても戦場に子供を置いて来れなかったので連れてきてしまったんです」と。スイゾーは「不憫じゃのぉ・・」とため息をついた。するとサスケが立ち上がり、偽の白雲斎とウポポに言った。「もう、演じる必要はなかろう?サルコとアカリ!」と。シンゾーとスイゾーは「え、ええええええええええええー??!」とのけぞった。すると偽のウポポは胴着を脱ぎ捨ててサルコになり、偽の白雲斎の子供も胴着を脱ぎ捨てるとアカリになったのだ。

 シンゾーは泣いた。サルコはサスケの妹であり、シンゾーの嫁であった。今は重い病になり、アカリが看病している。アカリは東軍・西軍から狙われている愛娘であり、アカリの美しさは世界一だった。サルコとアカリについては、シンゾーが関ヶ原の合戦に出る前に霧隠家の当主である長男のサイゾーに身を隠してもらっており、シンゾー自身も二人がどこにいるか知らされていなかった。シンゾーが思いがけぬ再開で涙をこぼし、思い切り駆け寄って抱き着こうとすると、サルコとアカリは映像でシンゾーはバタン!と地面に顔面から転び落ちた。偽の白雲斎とウポポの胴着も映像で透けていた。「わけを聞かせてもらおうか?」とサスケは言った。サルコは言った。「私たちはテレパシーの術であなたがたに今こうして会っています。大丈夫、私たちは無事にサイゾーさんのおかげで安全な場所に今いることが出来ています」と。スイゾーは「サスケの兄貴、念のためにこのサルコさんとアカリさんも本物かどうか試してはどうですか?」と言うとサスケはサルコに、シンゾーはアカリに本人でないと答えられない難しい質問をした。その質問はこうである。

 サスケが「子供のころに俺たちがハマってよく唄っていた曲は誰のなんて曲だ?」と聞くとサルコは「シブがき隊の”ないないない”です」と答えた。続けてサスケが真顔で「歌ってくれ」と言うとサルコは唄った。サスケもつられて唄った。しかもハモっていた。スイゾーはサスケが低い声で”ないないない”を正確に棒読みで唄うので笑いをこらえながら「もういいです」と言った。続けてシンゾーはアカリに「あのな、お父さんが誕生日におまえにプレゼントしたもの何か答えられるか?」と優しい声で聞いた。アカリは「覚えてない」と答えた。続けてシンゾーは「そうじゃな、お父さんがアカリに最初にほら、髪の毛をとかす、ほら、あれだよ」と答えるとアカリは「お母さん、100均で買ったくしをお父さんいつまでもアカリに誕生日にプレゼントしたって主張する!」と。アカリは、母が大好きでそれ以外の他のカメムシにはツンデレだったのである。シンゾーはサスケに言った。「間違いなく私の娘です」と。一行は木の幹の中のひさりぶりの再会となったがいまどのような状況になっているのか、ZOOM会議のような感じで一行と映像のサルコとアカリとで語らい始めた。サルコがしゃべりだそうとすると声が聞こえず、アカリが「お母さんミュートになってるよ」と言った。

#15 Kamemushi Rider "zoom"

 木の幹の中、つかの間のオンライン会議が続いた。シンゾーとスイゾーはどこから取り出したのか、メガネをかけてオンライン会議に参加していた。サルコとアカリは実物のように3Dで映像を見せていたテレパシーの術を変化させ、木の幹の内側の壁にサルコとアカリの映像を映した。サルコには重い病があったのでサルコは布団に寝ていた。アカリが隣でサルコの手を握りながら、これまでのことをサルコの代弁をしながら語った。一同がまずとても驚いたのは白雲斎がすでにもう他界していたことだった。関ヶ原の合戦はまだ終わっておらず継続しているのだが、白雲斎は東軍の総大将となったシャークと呼ばれる者が巨大なカブトムシである情報をつかんだ。カブトムシ界の中でも世界最大と呼ばれるヘラクレスという種類のカブトムシで、凄まじくでかい要塞に住んで堅固に守られている。西軍の精鋭部隊の刺客が送り込まれもそのがたいの強さは半端なく、どんなカメムシも簡単に踏み潰され、臭いだけを残す惨状となっている。白雲斎は東軍でも西軍でもなかったのだが、関ヶ原の合戦が始まると各地で東軍への召集令状がカメムシたちの家々に届き、そこでカメムシが関ヶ原に向かっていくと空き巣になった家に東軍のカメムシが忍び込み、食料を強奪するとの噂を耳にしたと言う。白雲斎は忍術の里で修行中の弟子で東軍から召集された者が関ヶ原に出向くと見せかけて戻ると自分の家に東軍のカメムシが忍び込んで食料を漁っているのを発見し理由を聞こうとしたところ口封じに大勢の東軍に囲まれ亡き者にされたことを知った。そのように食料を東軍がかき集めるのは、東軍の大将であるシャークがカメムシの食べ残しの食料が好きだからとの理由も白雲斎のもとに情報が入ってきていた。

 無敗のシャークの側近であるカメムシの将軍ヤジローが東軍のカメムシたちをコントロールしていた。ヤジローがアカリを妻にしたいとシャークに伺いを立てカメムシに興味のないシャークが承諾したため、ヤジローは関ヶ原の合戦をでっちあげた。もともと西軍はなかったのである。カメムシ界の政府軍のような東軍は召集されて関ヶ原にやってくるカメムシの家を荒らし、召集されてもやってこないカメムシを西軍だと全国のカメムシに思わせることに成功した。カメムシたちの間で持っているカメムシ対応のスマホをうまく活用したからである。

 東軍は西軍をやっつけようと争いを始めた。召集に応じなかったカメムシを叩き起こし、自分たちの街から追い出されたカメムシが西軍となっていった。西軍の追い出され空き家となった家の食料も総大将シャークの食料となるものを漁りに東軍のカメムシが押し入った。東軍の末端の者たちには「アカリを嫁にしたいと東軍と西軍が争っている」とのデマ情報が流れた。そのデマ情報を鵜呑みにして、助けを求めシンゾーもスイゾーもサスケに助けを求めに東軍から脱走したのだった。白雲斎の暮らす忍術の里で平和に暮らすカメムシたちは関ヶ原の合戦に興味のない者ばかりだったため、世の中のカメムシたちからは完全に西軍と見なされていた。全国各地のカメムシの大軍が忍術の里に押し寄せる前に白雲斎は忍術の里のカメムシたちに解散を命じた。戦争が嫌で逃げ出したカメムシたちも大勢いたが、白雲斎の側近の者たちで詳細を知るカメムシの忍者の精鋭たちは、東軍の作り上げたでっちあげの蛮行に怒りを覚える者も多く、彼らは自ら進んで西軍を作り東軍に立ち向かおうとした。そして、今、西軍の総大将はシンゾーとサルコの娘であり、アカリの妹であるウポポが総大将をつとめ、霧隠家の継承者である忍者のサイゾーが西軍の将軍をつとめているという。

 白雲斎は、忍術の里から逃亡したカメムシの弟子たち、あえて西軍になって戦いにでたカメムシの弟子たちを見送った後、自分はあえて自ら東軍に捕まりに行った。東軍の将軍であるヤジローの陰謀、そして無敵と呼ばれる総大将シャークの唯一の弱点とは何かを突き止めるためである。そしてそれを知ったがゆえ消された、とのことであった。ここまで話して、アカリは深いため息をついた。そこで画面を見ていたシンゾーは言った。「知らなかった、ウポポが西軍の総大将になって、兄貴のサイゾーが将軍で東軍と戦っていたなんて・・・。俺は今まで何をしてきたんだ・・」と。スイゾーは「確かに俺たち関ヶ原に行くと、西軍と戦う兵士の部隊と、食料を調達する部隊にグループを分けられていた・・・」と嘆いた。サスケはアカリに「白雲斎のじっちゃんが俺たちに何か手がかりを残してはいないか?」と質問した。するとアカリはウィンクして「さすがサスケおじさん!それをみんなに伝えたくてここまで話してきたのよ!!」と喜んで答え「画面共有します!」と言った。スイゾーが「え?画面共有?」とうつむいていた顔を上げると木の幹の壁に、大きな画面が現れた。

 「え、なんですか、これは・・?」とスイゾーがたじろぐと、アカリは「私、けっこう動画の編集が好きなのよ!お母さんの看病ばかりだとストレスも溜まるから、お母さんが寝ている間に、1人でいろいろ撮影したり、編集したりして、みんなに今日こうして白雲斎のおじいちゃんのことを伝える時が来る日を待って、動画を作っていたの!!見てくれますかーーーーー?!」と。シンゾー、スイゾー、サスケは雷鳴も外でなっており、少しづつ雨が浸水して床下浸水になりつつある木の幹の中におり、喜んで「イエーーイ!」と答える余裕などなかったが、あまりにアカリがこの瞬間を待っていた、という雰囲気だったため3匹ともZOOM会議のように両腕で丸を描いた。アカリは満面の笑みで「それでは、いきますよーーーー!!」と言って、アカリの作ったオリジナル曲がオープニング曲として木の幹の中いっぱいに爽やかな前奏とともに流れ始めた。同時に雷鳴が鳴り、バリバリっという木の割れるような音が聞こえてきたかと思うと、滝のような雨水が木の幹の中に入ってきてシンゾーの顔面に直撃した。スイゾーは慌ててバリアの術でガラスの船を作り、その上にアカリにバレないよう静かに乗るようにシンゾーとサスケを誘導した。

 画面いっぱいにアカリのプロモーションビデオのようなオリジナル曲が流れていた。この時を待っている間、相当ヒマだったことがよくわかる動画だった。歌詞に関係のない時に紅茶を飲んでいるアカリが自撮りでうつっていたり、サルコが背中をかいている場面がサビで出てきて感動すべきなのに笑ったらアカリが泣きそうでもあるし、自分たちの乗るガラスは床下浸水が進んでどんどん水傘が増している状況となっている。うつしだされた動画のアカリのアップの顔が半分ぐらい雨水に沈んだようなところでアカリの作ったオリジナル曲の動画が終わった。シンゾー、スイゾー、サスケが同時に安堵のため息をつくとアカリは「どうだった、今の曲?!」と感想を求めてきた。

 「よかったよーーー!」と疲労した声で3匹は拍手した。バリバリボーン!という音がして、木の幹の中にまた大きな滝のような水が入ってきた。サスケは言った。「アカリちゃん、ちょっと15分だけ休憩してもいいかな?みんな胸がいっぱいになっちゃって、15分したらまた白雲斎のじっちゃんのお話くわしく聞かせてね!」と。アカリは「OK!」と明るく言って、みんなに動画をついに披露できたことで大満足していた。3匹は休憩に入ってすぐに木の幹から脱出し、近くに洞窟を見つけて素早く移動した。15分後にまた壁に映像を映した。その壁はなんと冬眠中の熊の顔だった。

#16 Kamemushi Rider "rock"

 その頃、関ヶ原ではド派手な重低音のラップミュージックが東軍の本陣から流れていた。そこに時の東軍のカメムシの将軍、ヤジローがおり、あちこちに派遣する使者の伝令に奔走していた。ラップミュージックは伝令の内容が外に漏れないためにである。本陣は兵士部隊、食料部隊の二手に分かれていたが、そのどちらからも働きがよくないとされた者、東軍への忠誠が疑わしい者は総大将シャークの食料運搬係に任命されていた。ヤジローは全国指名手配のシンゾーとスイゾーについて「生け捕りにするように」と東軍の精鋭部隊に激しく檄を飛ばしていた。

 やがてアカリを捕獲し妃とする時にアカリが嫌がったらシンゾーとスイゾーを人質に合意をとるなど、使いでがあると思っていたからである。側近のうちの一匹のカメムシが「シンゾーは実の父だから生け捕りはわかるけど、スイゾーは生け捕りにする必要ありですか?」とヤジローに聞いたことがある。ヤジローは質問してきたカメムシをにらんで、雷鳴の術という忍術の電気ショックでそのカメムシを秒殺した。「余計なことまで詮索しなくてよい」と言いながら、心の中でアカリの思い人であるカメムシがスイゾーであることに怒りを燃やしているのだった。あちこちに張り巡らされた東軍のカメムシのスパイたちから得た情報で、ヤジローはそう確信しているのだった。

 東軍の陣地にまで激しいおたけびが響き、ヤジローは「重低音ラップまでさえぎるほど、シャーク様はお怒りじゃ」と言った。シャークが住んでいる要塞まで食料を運ぶよう食料運搬係となっているカメムシたちに伝令が下った。「いよいよ我らの番じゃ・・」と食料運搬係のカメムシたちは悲壮な表情で、全国各地からかき集めてきた食料の山を荷馬車に積んで運んでいった。運んでいく食料運搬係の先頭に立つ者が嘆いていた。

 要塞に食料を運搬して戻ってきたカメムシが1匹もいなかったからである。要塞はどこにあるのか。中で何が行われているのか。シャーク様とはどんなお方なのか。食料運搬係たちは運搬の途中で目隠しをされて歩かされた。そして2度と戻って来る者はなかったのである。ヤジローはシャークを総大将に据えていたが、シャークが何の知能もない巨大なカブトムシであることを周囲に隠していた。そして、食料にカメムシの臭いのついたものを食べさせることによって徐々にカメムシを捕食するカブトムシに育てようとたくらんでいた。

 しかし、シャークは通常のカブトムシと同様に果物や樹液が大好物であったが、運ばれてくるカメムシの臭いのする食料にいつも腹を立て、運んできたカメムシを要塞の中でいつも踏みつぶしていた。ヤジローの雷鳴の術によって電気ショックを与えられると、ヤジローには従順になりヤジローを頭に乗せ暴れまわるのがシャークはとても好きだった。知能が低く自分が東軍の総大将に仕立てられていることも知らずに要塞の中で鎖につながれていた。カメムシにはわからないカブトムシの言葉で、いつも「ヤジロー、遊ぼう」とシャークは吠えていた。

 その声が重低音のラップミュージックをさえぎるほどの大きなおたけびになり、東軍の本陣まで響き渡っているのであった。一方、西軍と呼ばれるウポポの本陣は、大きな山の上の隠れた場所に本陣が陣取られていた。ウポポは鉄仮面を被り、周囲に女子であることを隠し戦場の指揮に当たっていた。霧隠家の当主サイゾーが圧倒的に数で不利な西軍が東軍と互角に戦えるまでの戦術でウポポを助け、守っていた。

 サイゾーは霧に隠れ、味方までどこにいるかわからないところにいたのだが、サイゾーはカメムシの天敵であるカマキリを自在に操っていた。サイゾーに従うカマキリは、カメムシを絶対に襲ったり食べたりしなかったのである。しかし、子のカマキリは違った。サイゾーは東軍が侵入しそうな道に、タイミングの良い時に霧吹きの術という忍術であたりに霧を立ちこめさせ、東軍のカメムシが通るタイミングで、その道の真ん中に巨大な泡を投げた。

 その泡は、カマキリが生んだばかりの泡であり、知らずに東軍のカメムシが泡の中を通ると一斉に子のカマキリが泡から無数にあらわれ、東軍のカメムシを襲って食べた。東軍にとっては、やっかいな敵であり、常にタイミングよく作戦の裏をかかれるため、西軍の防戦に手を焼き、カメムシの関ヶ原の合戦は長期化しているとの状況が続いていた。ウポポは心から平和を願って祈っていた。いつか姉のアカリや母のサルコ、父シンゾーと平和に暮らしたい、と。西軍のカメムシたちを励ましながら、夜は星を見上げながら鉄仮面の下で涙を浮かべていた。

 同じころ、サスケ、シンゾー、スイゾーは木の幹から脱出し、冬眠中の熊の顔と知らずに熊の顔をよじ登り、「ちょうどいい洞穴があったぞ!ここなら雨に濡れることはあるまい!!」とシンゾーが言って、「そうですね、ここで映像をまた流してもらってアカリさんの歌を聴きましょう!」とスイゾーが目を輝かせて言った。サスケは「歌より白雲斎の残した手がかりの話が早く聞きたい」と不機嫌そうに言った。3匹は洞穴の壁に映像を映すよう、テレパシーの術を使えるアカリに伝えた。アカリは「OK!」と言って洞穴の壁に映像を映し出した。そして3匹にこう言った。「みなさん、アカリの生まれて初めて作詞作曲した曲を聴いてくれてありがとう!次の曲は白雲斎のおじいちゃんの手がかりの話に行く前に、あたしが白雲斎のおじいちゃんをリスペクトして作ったおじいちゃんの思い出のフォトムービーにあわせて、まじでかっこいいロックの曲を作ったんで聴いてください!曲のタイトルは、ラストワルツって言うの。よかったら手拍子をよろしくお願いします!」と。激しいロックギターの前奏が鳴り、オープニング曲とは打って変わった楽曲があたりに響き渡った。シンゾーとスイゾーはロックコンサートのように手を上げジャンプしとても喜んでいたが、サスケは壁が微妙に振動していることを察知していた。その洞窟の壁は冬眠中の熊の耳の中だったのである。

#17 Kamemushi Rider "Snow"

 その後、サスケとシンゾーはとある古い民家の軒下にいた。そして、スイゾーはとある島にいた。熊の耳の中で、アカリが映像で紹介してくれたのは白雲斎の書置きのメモだけだった。サスケには手書きで書かれた地図の書置きだけがあり、真ん中の民家が赤塗になっており、サスケにしか読めない言葉でこう書かれてあった。「ミカンを頭の上に乗せている赤子の頭の毛の中に1本だけ硬い毛がある。その毛をむしり、剣とし、シャークを倒せ。アカリとサルコを守るべく護衛を送れ」と。そこで一行は2手に分かれることになった。サスケとシンゾーは赤子のいる民家に、スイゾーはアカリのたっての願いでアカリとサルコの護衛にとある島に向かっていた。

 スイゾーは指定の島に到着してまず口を開いたまま驚いた。あまりに防御が手薄だからである。「こんなとこに隠れていたというのか・・」と。そこは人間たちが捨てたゴミが積み重ねられているだけの島であり、確かに探すのは大変といえば大変なのだが、カメムシにとっては逆に刺客が隠れるのにも好都合であり、ある意味わかりやすいといえばわかりやすい場所ではないかとスイゾーは白雲斎がここにアカリとサルコを隠すことへの意図を疑った。アカリのテレパシーがスイゾーには聞こえ、このゴミを右、このゴミを左、と道案内を聞くうちに簡単に到着したところに立っていたのは、腕の折れた優勝トロフィーの像だった。それは、ニューヨークの自由の女神像にも見えた。「どこにいるのか?」とスイゾーが優勝トロフィーの像のまわりをうろうろしているとアカリは言った。「優勝トロフィーの両目の中に私たちはいます。でも東軍の総大将のヘラクレスが倒されるまでこのトロフィーはカメムシの誰であっても砕かれないよう忍術がかけられてるから私たちはせっかく来てくれたスイゾーさんにも会えないの」と。スイゾーは尻もちをついて「じゃあ、俺ここにきた意味あったかな~、サスケさんとシンゾーさんについていって手柄立てたかったなぁ。ここで見てるだけ?」とぼやいてあくびをした。アカリは「いまカメムシと言ったけど、このトロフィーの最大の外敵はあれなの・・・」と指さす。騒音がする。ブロロロロロ・・・「わわわわわっわ・・・」スイゾーはおののき、たじろいだ。ゴミをかきあつめるブルドーザーがあちこちでゴミをかき集めているのである。人間から見ると小型のブルドーザーであったが、カメムシのスイゾーから見上げたその姿はラスボスそのものだった。

 一方、サスケとシンゾーはとある古い民家の軒下で初雪を見ていた。シンゾーは初雪に飛び乗って「これ楽しいなあ!」と言ってすぐに「ドリル!」と言い雪に穴をあけて空中から落ちる遊びにはまって楽しんでいた。サスケは地図をにらみながら「おかしいな、ただの古い民家なのにまるで隙がない」とつぶやいていた。騒音がする。ボッボッボッボ・・・庭先で赤い軽自動車のアルトが到着し、髪の毛を七・三にわけたサラリーマンが立っていた。サスケは「チャンスじゃ!」と言い、雪で遊ぶシンゾーを捕まえてサラリーマンの靴のかかとに飛び乗った。サラリーマンは古い民家の引き戸を引き「ただいま!」と言って民家の中に入った。サスケとスイゾーは振り落とされないよう靴にしっかりしがみついていたが、玄関先を終着駅のように靴は玄関先に無造作に脱ぎ捨てられた。しかし、ドンドンドン・・という大きな地響きのような足音が鳴り、サスケとシンゾーは靴紐の結び目にさっと隠れたのだが、サラリーマンは靴をひょういと持ち上げた。

 「この靴、カメムシの臭いがするぞ。外で振り回すかな・・」とサラリーマンは言い、靴を民家の外で大きく振り回した。50回転目でシンゾーは振り落とされ、300回転目でサスケは振り落とされた。サラリーマンは「よし、カメムシの臭いがなくなった」と言って民家の中に戻っていった。このサラリーマンはカメムシの臭いにおそろしく敏感であり、カメムシが入らないよう古い民家のありとあらゆるところを完璧に自力でリフォームを施しており、入る隙を与えない要塞にしていたのであった。振り落とされたシンゾーとサスケは仰向けになりピクピクしていた。降り積もる雪をみながらシンゾーは「なかなか手強いところに来てしまいましたのぉ、サスケの兄貴・・」と言った。サスケは「ちょっと待ってな、シンゾー」と言って物陰に走り、そこで吐いた。300回まで耐えたのは、すこしシンゾーに見栄を張りたかったからだとのことをサスケはすこし後悔した。その翌日も同じ靴にしがみつく作戦を決行したがシンゾーは30回で脱落、サスケはさらに見栄をはって500回で振り落とされ、また同じ場所で吐いた。サラリーマンは翌朝、庭先で変な臭いがすることに驚き、出勤に間に合わない焦りから玄関を開けっぱなしのままホースで庭先を水で流しまくった。サスケは「入城!」と言って寝むかけているシンゾーの襟ぐらをつかんで堂々と古い民家の中に入った。ここから人間VSカメムシの様々な攻防が繰り広げられていくのである。

#18 Kamemushi Rider "Gypsy"

 その頃、スイゾーは迫りくるブルドーザーを目の前に、忍術のバリアを放つがバリアで出来た小さなガラスはすぐにチョコレートのようにバリっと割れるのを見てどうしようか悩みあぐねていた。ブルドーザーがなかなかトロフィーの方向にこれまで向かってこなかったのはラッキーなことであったが、スイゾーが到着するまでだいぶゴミが片付けられトロフィーのあるゾーンにブルドーザーが来るのは時間の問題だった。スイゾーはトロフィーを簡単に移動できるような車輪が付いていればいいのにと心から思った。昔シンゾーの兄貴が連れて行ってくれたライブハウスのバンドマンが重いギターアンプの下に車輪をつけていたのを思い出した。あのバンドマンかっこよかったなぁ!と思い出しながらエアギターのポーズをするとブルドーザーが容赦なくトロフィーの方向に向かって進んでいくのが見える。「やっべえ!どうしよう、どうしよう!!」とスイゾーは全速力で走りながら自分がこんな忍術を使えたらいいなと思う願望を口にしてみた。「いでよ、すべる、薄いガラス4枚!」と。するとその通りのガラスが出てきた。「トロフィーの下に滑り込んでトロフィーを移動せよ」とシンゾーが一か八か唱えるとシンゾーの手からガラスが4枚出て、シンゾーのはるか先にあるブルドーザーの下をすり抜け、トロフィーの真下に滑るガラスが入った。そしてスイゾーが指さした方向にトロフィーが間一髪の移動に成功したのである。トロフィーの中にいたアカリとサルコはトロフィーの目から一部始終を見ていて、とても喜んでガッツポーズをした。トロフィーのあった場所のゴミはすべてブルドーザーによってかきだされ粉々になって炉に投げられていった。またその場所に新しいゴミが運ばれてきた。スイゾーはトロフィーをより安全な場所に隠すべく、あたりを偵察して回った。もう何年も放置され手つかずになっている大量のタイヤ置き場があった。スイゾーは真夜中になってからトロフィーを移動させ、積み重なったタイヤの中にトロフィーを隠すことに成功した。「いでよ、怪力の、強いガラス4枚!」など、タイヤにトロフィーを運ぶときは自分の希望のガラスを言うとそのとおり出てきた。偶然ではあったがスイゾーの忍術が強化され、スイゾーの能力が上がっていたのである。

 一方、サスケとシンゾーは民家の庭先で氷の中で凍り付いていた。何度も民家の中に潜入したのだが、その都度恐ろしい目にあって民家の外に放り投げられていた。シンゾーは氷の中で「サスケの兄貴、もう疲れておいらのドリルの忍術、もう回す元気もなくなりました・・」と嘆いていた。サスケは「しかし、酷い目にあったのぉ・・」と回想していた。民家の中に入ると、これまたカメムシの臭いに敏感なサラリーマンの妻がおり、ガムテープ、ペットボトル、ハエ叩きなど、ありとあらゆるカメムシ対策に用いられる拷問道具が民家の中にはそろっており、玄関にいつも常備されているのである。「今日は成功した!!」と思っても、サザエさんのように3つ頭をお団子にしたサラリーマンの妻が現れるかと思いきや、「また、いたわね!このカメムシ!!」と言って、サスケとシンゾーをすぐに見つけ追い詰め、庭に放りだした。まともに争っても勝てないことを知っているサスケとシンゾーはいつも死んだふりをして庭に放たれていたのだが、毎朝サラリーマンが「庭から変な臭いがする!」と言って真冬なのに放水するので、「カメムシ界のスケート選手になろうかな」とおどけて凍り付いた地面を滑っていたサスケだったが、とある朝に気がつくと氷の中でシンゾーとともに目を覚ました。難攻不落の民家をどう攻略すべきか、その前に氷から脱出しなければならないが疲労で元気が出ない。ガムテープの攻撃で全身がサスケもシンゾーもボロボロで痛みも激しかったのである。すると、氷のガラスの上にカメムシ4匹の姿が見えた。「なんだべ、ここにカメムシが埋まってるべぇ」との声が聞こえる。サスケとシンゾーの頭上で掘られる厚い氷。誰かがフラメンコのギターを弾き、誰かがサスケとシンゾーの真上でリズミカルにタップダンスを踊っている。ステップに合わせて、厚い氷がリズミカルに割れていく。割れて跳ねた氷がタキシード姿で髭の生えたカメムシの持つワイングラスに入りそのカメムシがワインを飲むと、一同が大笑いしている。サスケとシンゾーは氷の下から掘り出された。そこにいたのはカメムシのジプシーの家族・カルベネ一家だった。

#19 Kamemushi Rider "moon"

 カルベネ一家に氷の中から救い出された時、サスケの様子がおかしかった。シンゾーは氷の中に長時間いて風邪でもひいたのか?と心の中で思っていたのだが、サスケは救い出されて本当に安心した様子を示していた。シンゾーはカルベネ一家にお礼を伝えるサスケの耳元に小声で話しかけた。「サスケの兄貴、サスケの兄貴の忍術がどんな忍術なのかあっしには推測もつきませんが、あんな氷の中に閉じ込められたぐらいの状況なんかすぐ脱出するなんて簡単なことなんじゃ?」と。するとサスケは二の腕をさすりながらこう答えた。「どんな忍術にも弱点はあるんじゃ、シンゾー。あの状況でわしの忍術を出してしまったらわし自身が命取りになるところじゃった・・。シンゾーが氷の中で体力は回復したらドリルの術で助けてくれることを待っていたんじゃが、凍死する寸前のところでこの一家に助けてもらえた」と。シンゾーはその言葉を聞いて、サスケは無敵のカメムシ忍者だと思っていたが、弱さもちゃんと持っていることを知り少し安堵した。安堵した後サスケとのこれまでの日々を振り返ると、ご飯を食べるときになんとなく食べ方が汚い、歯磨きが時々適当だ、寝る時大きないびきをかくので敵地では敵に気づかれるのではないかとか、完璧でないサスケが思い出されて少し微笑ましく思った。

 カルベネ一家にサスケとシンゾーがお礼を言うとカルベネ一家を率いるドンと呼ばれる殻をむく前の卵のようなまんまる体にタキシードスーツを着たドン・カルベネ(これからドンと呼びます)が「なあに、気にするこたねえべ!ここで踊りの練習してたら、たまったま、おめさまがたが氷の下さ、いだだげだ!」と答えた。ドンから紹介されたカルベネ一家は、ドンカルベネの妻ローザ、踊っていたのが長女のアネモネ、ギターを弾いていたのが末っ子の長男ポルカだった。サスケはシンゾーが思うよりも悪寒がひどく、カルベネ一家と話している間ずっと唇が紫になってガタガタ震えていた。サスケを不憫に思ったアネモネは「スープを作ってくるわね」と言ってカルベネ一家が乗ってきた幌馬車の方に向かって走っていった。すると幌馬車の中から「キッキー」と言って小さなシロアリが降りてきてアネモネの肩に飛び乗った。「え・・・・」とサスケとシンゾーは顔が無表情になった。シロアリを飼っているのか、と驚愕したのである。シロアリはまるで飼われている子猿のようにカルベネ一家になついており、スープを作っているアネモネの足に頭を擦り付けて楽しそうに駆け回っていた。

 サスケは作戦が閃いた。シンゾーは嫌な予感がした。シンゾーから見るに霧隠家のサイゾーの作戦は英智に満ちあふれとても安心して従えるのだが、サスケの立てる作戦は肉弾戦というか、無鉄砲で意味がわからない予測不能な作戦ばかりだったからである。どのような上司をもつかによって、現場の苦労はずいぶん変わる・・そうシンゾーは宮城からはるばる忍術の里に移動するまでのことを回想しながら振り返っていた。しかし、スイゾーはどうだったか?ともに宮城のサスケのもとまでシンゾー、スイゾーだけで行った時よりもサスケと一緒の方が楽しかったとスイゾーは話していた。サスケは何かワクワクさせてくれる、そんな魅力のある存在なのだと改めてシンゾーは思うのだった。

 サスケは目を輝かせアネモネが作った温かいスープを飲みながら言った。「シロアリがこの家を喰ったらどうなるべ?」と。シンゾーは腰を抜かして驚いた。しかしドンはすぐさま手を叩いて喜んだ。「旅のお方よ、なぜそのようなことを思いついたのか詳しくはわからんが、面白いことを言う。あんたがたがなんでここにいて、そんなこと考えるのか教えてくれねえべが?」と。シンゾーは進み出て言った。「助けてもらって申し訳ないが、あなた方が東軍の忍者でないかどうか、調べさせてもらってもいいか」と。ドンは「どんぞ(どうぞ)」と言った。シンゾーはアカリに呼びかけるとテレパシーの術でアカリが映像で現れ、カルベネ一家の情報を即座に調べ「問題なし!」と答えてアカリの映像があっという間に消えた。ドンは言った。「さあ、あんたがたのことも教えてくれ」と。サスケとシンゾーがこれまでのことを詳しく話すと、いつの間にか夜になっていた。ドンは焚き火を始め、ローザとともに食事を作り始めた。「みんなで深く語らおうじゃないか、友よ」とドンは語った。サスケやシンゾーがこれまでの話を語り終えると、ドンは「せちがらい世の中になったのぉ、東軍がどうの、西軍がどうのなんて我らジプシーの一家には関係のないお話だとしても巡業がしにくくなるご時世となってしもうた。まず世の中にカロナというカメムシのパンデミックが押し寄せて、カメムシが簡単に集まることが出来なくなった。それでカメムシは男子が増えすぎて女子が減少しすぎたから、我々も妻のローザも娘のアネモネもずっと男装して生活するようになり、いま聞いたウポポちゃんという西軍の総大将になった子も男装しながら闘っているんじゃろう・・。東軍の召集令状とかいうのも、住所のないサスケさんや我々ジプシーの一家のような住所不定のカメムシには届かなかったが、そのうちみんながカメムシの東軍だと名乗り出したら、西軍を知りませんというカメムシも東軍に所属してないから西軍とみなされて討伐されていくようになるんじゃろうなぁ。なんでこんな世になってもうたんじゃろうなぁ・・」と言った。シンゾーはシロアリが嫌いだったが、シロアリがなついてくるのでやむなく膝に乗せ、なでながら答えた。「ドンさん、わしはこの戦の最終ゴールがどこかわからんのじゃ・・。今は東軍の総大将をやっつけて白雲斎さんの仇をとり、西軍の勝利となるのを願っておるが、西軍が天下をとったとしてもウポポにこの国をまとめられるだけの器があるわけじゃないと思っとる。平和な世の中になるのが一番じゃが、サスケの兄貴やサイゾーの兄貴がウポポの側近になってこの国をまとめようとしても、今度はまた西軍でない奴は東軍なんじゃとなる繰り返しになるような気がして・・」と。ドンはパイプ煙草をくわえながら言った。「我らカルベネの一家はあんたがたが赤子の毛から剛毛を掴み取る、という使命を果たすところまで協力する。我々は平和な国じゃないと歌って踊って暮らすことができん。我々の演奏を楽しみにしている全国のカメムシの村民たちもそうじゃ。我々が協力するのは、おめさんがたにこの国をよくしてほしいと思うからじゃ。なあ、いいだろ?ローザ、アネモネ、ポルカ?」と。ドンの家族は黙って笑顔でうなずいた。月の明かりがとても綺麗な夜だったが、すっかりドンの家族の手料理で体力が回復したサスケは幸せそうに大きないびきをかいて寝始めた。「いびきがでっかいのぉ」とドンは笑った。シンゾーが「いつもなんですよ」と小声で言って真夜中なので寝ようとすると、枕元にスイゾーの映像が現れた。シンゾーが「どうした、シンゾー?」とスイゾーは小さな声でシンゾーに一気に語り始めた。「シンゾーの兄貴、サルコさんに言うなと言われてアカリさんが口止めされてたんですが、どうやら時間があまりないようです。実はトロフィーの中にサルコさんとアカリさんが隠される時に、白雲斎さんが1年分の食料をトロフィーの台座のところに備蓄してくれたそうなんですが、あと1ヶ月分しかないところまで1ヶ月前に在庫が減って、1ヶ月分の在庫の量を小分けに分けて食べて今は2ヶ月たってるそうで、通常の1週間分ぐらいの在庫しかもうトロフィーの中には食料がないようで、映像ではわかりにくかったと思いますが、サルコさんとアカリさんは相当痩せてしまっているようで、トロフィーが強い忍術で東軍の総大将を倒すまでとの約束でプロテクトされているため、僕の力では食料や水を中に送ることが出来ないんです」と。シンゾーは気が動転した。のんびりしている間にサルコとアカリの命の危険が迫っている。サスケが目覚めたら伝えよう。そしてカルベネ一家の協力により、迅速にこの事態を乗り越えることができるかシンゾーはとても不安ではあったが「スイゾー、ありがとう。知らせてくれたアカリさんにもよろしく伝えてくれ」と言って星を見上げた。古い民家のツララに月の光が反射して美しかった。シンゾーは仲の良いカルベネ一家が寄り添って眠るそばで、遠く離れたサルコ、アカリ、ウポポのことを思って床についた。ゴー、ゴー、ゴー・・とサスケのイビキの音が遠くまで響きわたっていた。

#20 Kamemushi Rider "light"

 翌朝、サスケとシンゾー、カルベネ一家は焚き火の残り火を囲んで朝ごはんを食べながら井戸端会議を開いていた。昨夜の夜中に受け取ったスイゾーからのメッセージをシンゾーはみんなに伝えた。サスケは地面に落ちていた枝で何かを書き始めた。それにはサルコとアカリを救出するためにこれから必要な計画が書かれたのだが、到底実現不可能な計画が打ち立てられていた。シンゾーはこれまでに誰にも見せたことのないような不愉快な表情をし、心の中で「サイゾーの兄貴ならもっと知性のある、みんなが納得する緻密な計画を立てるはずなのに、サスケの兄貴は何を考えているのか・・」とぼやいていた。家族を心配するあまり、気持ちがとても暗くなるのだった。サスケの地面に書いた計画はこうだった。

 1日目:民家の潜入に成功する

 2日目:赤ん坊の頭から硬い毛を抜いて民家から脱走する

 3日目:関ヶ原に移動する

 4日目:関ヶ原の潜入に成功する

 5日目:東軍の将軍を倒す

 6日目:東軍の総大将を倒す

 7日目:アカリとサルコを助け、西軍の勝利を世に示す

 この計画を見てシンゾーは「無理だろう。。」と小さな声でつぶやいていたが、カルベネ一家のドンは「面白そうじゃな」と笑って言った。そして、サスケにこんな提案をした。「サスケどん、この計画で言うと1日目に今日は当たるが、わしらは忍者じゃないから忍術は使えん。でも旅から旅へこれまでしてきた経験からじゃが、あの民家の水道管から室内に入ってはどうかと思うんじゃ。水が流れるのは人がいる時じゃ。よくゴキブリたちが夏に使う手なんじゃがな。赤ん坊は寝る。母親も油断する。その時がチャンスじゃ」と。サスケは膝を叩いて「それはいい手じゃ!」と言ったがシンゾーは「もう寒いのは嫌じゃ!」と小声で言った。しかしカルベネ一家も「お父さんそれはいい考えだね!」と手を取り合って喜んでいるため、多勢に無勢でシンゾーは泣く泣くその作戦に従うこととなった。

 ドンの手引きのもと、配管のいくつかをカルベネ一家が調査すると、よく使われている配管とほとんど使われていない配管があり、使われていない配管の錆びているところを狙って、シンゾーの忍術ドリルで小さな穴を開け、サスケとシンゾー、カルベネ一家が配管の中に潜り込んだ。配管の中は真っ暗で何も見えなかったが、シンゾーがカメムシ用のスマホのライトで照らすと足元にゴキブリの白骨化した死体が転がっていた。シンゾーはぞっとしたが、サスケは「こういうのは、あるあるだと考えた方がいいぞ」とシンゾーを励ました。少し先に進むと髪の毛がたくさん詰まり先に進めないところに出くわした。1本1本からまっている髪の毛をカルベネ一家はほどきながら、「ちょっとこれは時間がかかりそうじゃな。1人分ぐらいは通れそうな道が作れそうじゃが、わしの胴体はでかいから先にサスケどん、シンゾーどんが行って我々は後から行くことになりそうじゃな」と言った。シンゾーは「ドンさん、わしのスマホがないとここは真っ暗になってしまうが大丈夫かい?」と聞いた。ドンは「大丈夫。わしらはクリスチャンでな、心の中に光があるからこんな暗闇なんぞ、大したもんじゃないべ」と答えた。ドンはローザ、アネモネ、ポルカに「そろそろ礼拝の時間じゃ。みんなで髪の毛をほどいてサスケどんとシンゾーどんが通れる道を作りながらになるが、今日は暗闇の中から祈りを捧げるべ!!」と語った。

 ドンは髪の毛をほどきながら、手元に聖書を置いてこの箇所を読み上げた。

 ”ある人に息子がふたりあった。弟が父に、『お父さん。私に財産の分け前を下さい』と言った。それで父は、身代をふたりに分けてやった。 それから、幾日もたたぬうちに、弟は、何もかもまとめて遠い国に旅立った。そして、そこで放蕩して湯水のように財産を使ってしまった。何もかも使い果たしたあとで、その国に大ききんが起こり、彼は食べるにも困り始めた。それで、その国のある人のもとに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって、豚の世話をさせた。彼は豚の食べるいなご豆で腹を満たしたいほどであったが、だれひとり彼に与えようとはしなかった。しかし、我に返ったとき彼は、こう言った。『父のところには、パンのあり余っている雇い人が大ぜいいるではないか。それなのに、私はここで、飢え死にしそうだ。立って、父のところに行って、こう言おう。「お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。雇い人のひとりにしてください」こうして彼は立ち上がって、自分の父のもとに行った。ところが、まだ家までは遠かったのに、父親は彼を見つけ、かわいそうに思い、走り寄って彼を抱き、口づけした。息子は言った。『お父さん。私は天に対して罪を犯し、またあなたの前に罪を犯しました。もう私は、あなたの子と呼ばれる資格はありません。』ところが父親は、しもべたちに言った。『急いで一番良い着物を持って来て、この子に着せなさい。それから、手に指輪をはめさせ、足にくつをはかせなさい。そして肥えた子牛を引いて来てほふりなさい。食べて祝おうではないか。この息子は、死んでいたのが生き返り、いなくなっていたのが見つかったのだから。』ところで、兄息子は畑にいたが、帰って来て家に近づくと、音楽や踊りの音が聞こえて来た。それで、しもべのひとりを呼んで、これはいったい何事かと尋ねると、しもべは言った。『弟さんがお帰りになったのです。無事な姿をお迎えしたというので、お父さんが、肥えた子牛をほふらせなさったのです。』すると、兄はおこって、家に入ろうともしなかった。それで、父が出て来て、いろいろなだめてみた。しかし兄は父にこう言った。『ご覧なさい。長年の間、私はお父さんに仕え、戒めを破ったことは一度もありません。その私には、友だちと楽しめと言って、子山羊一匹下さったことがありません。それなのに、遊女におぼれてあなたの身代を食いつぶして帰って来たこのあなたの息子のためには、肥えた子牛をほふらせなさったのですか。』父は彼に言った。『子よ。おまえはいつも私といっしょにいる。私のものは、全部おまえのものだ。だがおまえの弟は死んでいたのが生き返って来たのだ。いなくなっていたのが見つかったのだから、楽しんで喜ぶのは当然ではないか。』”

 ドンがここまで読み上げると、家族が髪の毛をほどきちょうど一人分の通れる道が出来た。ドン以外の家族もこれから髪の毛をほどき続けてドンが通れるようになってから家族みんなで後から行くと言った。「かたじけない」とシンゾーが先に進もうとするとサスケが聖書の話を聞いて、涙をこぼしてうずくまっていた。自分の人生を思い返していたからである。シンゾーはサスケの手を引きながら、サスケがともに旅をするようになってから強いサスケばかりではなくサスケの他の一面も多く見るようになったことをとても不思議に思っていた。シンゾーがいる霧隠の忍者の家では、サスケはサイゾーに匹敵する最強の忍者と聞いていたからである。シンゾーがサスケの手を引きながら髪の毛の中をかいくぐっていると、ドンの祈りの声が配管の中に響いた。ドンが祈った。「愛する天のお父様、サスケどんとシンゾーどんのこれからの旅がどうか守られますように」と。カルベネ一家はそれからもずっと真っ暗な配管の中で髪の毛を1本づつ、家族で協力してほどき続けていくのであった。

#21 Kamemushi Rider "first day"

 1日目:民家の潜入に成功する

 最初のミッションの日が訪れた。シンゾーが泣くサスケの手を引きながら、くねくねする配水管の中を登りきると民家の室内にある洗面所の水道の穴に出ることに成功した。しかしながら、さっそく「なんかカメムシの臭いがするわね」と敏感に反応しているサラリーマンの妻がハエ叩きをもって洗面所のまわりをうろついている。このカメムシ嫌いの人間を振り切るためにはどうずべきかシンゾーは洗面所の穴から四方を眺め、天井まで抜ける壁紙と壁紙の隙間を見つけた。その隙間を走って登るのにシンゾーの足では間に合わない。サスケの素早さであれば間に合うが、どうしたらいいのか?サスケは泣いたまま、ずっと片腕で目を隠したままの状態である。すると小声でシンゾーを呼ぶ声がした。

 「すみません、シンゾーさんとサスケさんですか?」と、若いイケメンのカメムシがシンゾーの背後にいるのだった。シンゾーは敵の東軍がここまで来たのか?と身構えた。すると若いイケメンのカメムシは「突然で申し訳ございません。わたしの名はスルガ。西軍のウポポ様の指令でお2人をお助けにまいりました、白雲斎様の弟子のひとりである忍者のカメムシです」と名乗った。シンゾーはアカリに、カルベネ一家を調べたときのようにテレパシーの術でスルガと名乗る者が敵でないかどうかを調べさせようとしたが、アカリから返事はなかった。すでにアカリは体力が落ち始め、テレパシーの術を使う余力がなくなりつつあることをシンゾーは悟っていた。そこでシンゾーはかつてサスケがサルコにしかわからない質問をして本物だと見抜いたように、スルガに質問した。

 「ウポポの秘密がわかるか」「ウポポ様は女性で西軍の幹部しかその情報は共有しておりません」

 即答で正解だったことにシンゾーは面食らったが、スルガを信用してみることにした。スルガは続けて「サスケ様、こちらに向かい皆様のあとを追ってくる途中でカルベネ一家様と真っ暗な配管の中でお会いしました。カルベネ一家のドン様という方からサスケ様が聖書の中にある”放蕩息子”のお話にいたく感動されたとのことだったのでサスケ様にこれを渡してほしいと聖書を預かってきました」と言った。サスケはスルガから手渡された聖書を手にすると、どこから取り出したのか老眼鏡をかけて聖書を最初のページから読み始めた。スルガは「他に何かお困りのことは?」とシンゾーに尋ねると、シンゾーは「実は天井まであの壁紙の隙間をぬって走って登りたいんじゃが・・・」と答えた。スルガは「もし私でよろしければ」と話した。スルガはかなり長身のカメムシで、驚いたシンゾーと聖書を読むサスケをひょいと肩に乗せ、天井まで高速で走り抜けた。その速度はサスケ以上ではないかと思えるほどのすさまじい速さであり、かなりの修行を積んできた忍者だということがわかった。「天井からなんか臭うわね」と瞬時にサラリーマンの妻がサスケ達の方向を向いてハエ叩きをもって走ってきた。ものすごいジャンプ力で天井に向けてハエ叩きが繰り出されてくる。スルガは天井の木目に出来た小さなふしあなを見つけ、「みなさんしっかり捕まっていてください!」と言って、サスケとシンゾーを抱えながら羽根をひろげて飛んだ。その羽根は虹色に色が塗られていた。カメムシの忍者の中には「傾奇者」と呼ばれるド派手なコスチュームをする忍者がいるとシンゾーは聞いていたが、これほどまでに美しい装飾の羽根を見るのがシンゾーは初めてだった。

 空中を瞬時に移動しふしあなの中に入り天井裏に入ると、シンゾーはびっくりした。ところせましとデスクが並び、カメムシがパソコンをしているのである。「サスケの兄貴、これはどういうことなんだ・・?」とシンゾーが尋ねてもサスケは老眼鏡をつけ聖書をずっと読み続けている。スルガは答えた。「ここにいるカメムシたちは西軍から私が読んできた事務職のカメムシたちです。みな臭いのしないスーツを着ています。サスケさんもシンゾーさんも臭いのしない忍者のつなぎ服を用意していますのでこれを着てください」と。スルガの差し出すスーツにシンゾーは着替え、サスケは聖書を読みながら着替え、目の前にある鏡を見たが、シンゾーはワニの上下のパジャマ、サスケはトラの上下のパジャマで、シンゾーは「スーツの方がかっこいいな・・」と言った。スルガは「すべてウポポ様の指示で用意させていただきました。おふたりに知らせておきたいことがございます。ここにいるカメムシもすべて東軍の忍者がなりすましているとお思いになるかもしれませんが、ここにいるみなは白雲斎様と忍術の里で暮らしていた平民たちで、みなが白雲斎様を尊敬し慕っておりました。お疑いがあれば、何度でもどのカメムシにも質問責めをしてかまいません。それぞれに白雲斎様の守る忍術の里がどれだけ平和で幸せな暮らしだったのか、お疑いがないほどに話すことでしょう。そして、実はお2人が知っている白雲斎様の書置きにあった、東軍の総大将の弱点が、この民家にいるミカンを頭に乗せた赤ん坊の毛であることは、すでに東軍の側にも情報が知れ渡っています。シンゾーさんとサスケさんがこの民家に来る前に、先に東軍のカメムシたちがその毛を奪ってしまおうと刺客を送ってきていたのですが、ことごとく大失敗に終わっているのです。西軍側が仕掛けた防犯カメラにその様子がありますので、これから攻略する前にそれを先に見ていただけませんか?」と。シンゾーは生唾をゴクンとのんで「見ておこう、サスケの兄貴!」とサスケの肩を揺らした。サスケは速読で旧約聖書の歴代誌まで読み終えて老眼鏡を外し、シンゾーと共に監視カメラの映像を見た。

 真夜中に赤ん坊がベッド柵の付いた赤ちゃん用のベッドに寝ている。東軍のカメムシが天井からつるされたまわるメリーゴーランドのようなものをつたい、赤ちゃんの頭上にやってきてそこから赤ちゃんのいるベッドに飛び乗ろうとしていた。すると赤ちゃんの目が光った。その光が東軍のカメムシをサーチライトのように照らした。赤ちゃんは「ブッブー」と言ってカメムシを指さした。するとハエ叩きをもったサラリーマンの妻が暗闇の中でエプロンをつけながらジャンプし東軍のカメムシを叩き落とし、画面に文字が出た。「ゲームオーバー」と。スルガは「編集の都合上、カメムシがやられるたびにゲームオーバーと字幕を入れています。ゲームオーバーになった録画ですが、かなりの数の東軍のカメムシが赤ちゃんの指さしにより飛んでくるサラリーマンの妻のハエ叩きにより始末されているのです」と説明した。

 1日目:民家の潜入に成功する

 ここまでのミッションはサスケもシンゾーも成功した。しかし、この先どのようにしたよいのか。天井裏の時計を見るとすでに夜遅くになっていたこと、ちょうどパジャマを着ていたこともあって、サスケとシンゾーはまずは寝ることにした。スルガは事務職のカメムシたちが夜勤の部屋で使っている部屋にサスケとシンゾーを案内させた。そこには防犯カメラのモニターとシフト表、折り畳みのベッド、冷蔵庫があり、眠れないときに読む雑誌や漫画などが置いてあった。シンゾーは「なんかネットカフェみたいで落ち着くなあ」と言い、サスケは聖書を枕元に置いて「明日も読むのが楽しみだなあ」と聖書を枕元に置いて眠った。スルガは事務職のカメムシたちに夜勤以外の者はタイムカードを押して寝るように告げた。1日目が終わった。

#22 Kamemushi Rider "2nd day"

 2日目:赤ん坊の頭から硬い毛を抜いて民家から脱走する

 2日目のミッションの朝がやってきた。シンゾーがワニのパジャマ姿で歯磨きをしていると、スルガは事務方と夜勤のカメムシの申し送りの時間に立ち会って的確な指示を出していた。シンゾーはスルガがいつ寝ているのか少し心配になった。サスケは夜明けにシンゾーよりも早く目を覚まし聖書を読んでいた。サスケの速読はとても見事で旧約聖書を読み終えた、とシンゾーに朝ご飯を前に嬉しそうに話していた。シンゾーは何気ない朝のようでもあり、今日はとんでもなくハードルの高いミッションに挑む日となることをワニのパジャマ姿で深刻な表情をしながら覚悟していた。スルガが昨日よりも事務方に様々な指示を出して鼓舞している様子が垣間見えていたからである。スルガの言うようにここに事務方の忍者はみな信用していいかもしれないとシンゾーは思った。朝に白雲斎が守り忍術の里の様子や平和だったころのウポポの様子を何人かの事務方に聞いてみたのだが、みな真面目に答えてくれた。それも口裏を合わせてというものではなく、シナリオがあってというものでもなく、それぞれに見た視線で答えてくれていたので、よりシンゾーの心を安心させた。しかし、今日は大きなミッションとなる日である。朝食を食べ終えるとスルガがサスケとシンゾーをスルガ専用の個室に招き「重要なことをお伝えしたい」と語り、パジャマ姿のサスケとシンゾーにこう語った。「サスケさん、シンゾーさん、昨日は赤ちゃんとサラリーマンの妻の映像を見ていただきましたが、重要なのはサラリーマンの夫の方です。私たちはいま臭いがしなくなるスーツとパジャマを着ていますが、この一家はとても敏感な嗅覚の持ち主でこのスーツやパジャマを着ていても臭いには反応するんです。何も着ていないときより30分遅れて臭いに気づかれる程度なのですが、気づかれたらサラリーマンの妻がどこまでも追いかけてきます。サラリーマンの夫の方は普段はいませんが、家に帰ってくる前にいつも酒を飲んで帰宅して、赤ん坊が本来は寝るはずの時間ずっと赤ん坊を抱いて、頭にミカンをのせるという時間を至福の時だと思っているようです。赤ん坊は昼はほとんど起きておりカメムシがいると指さすので隙はありませんし、夜は寝ますがサラリーマンの夫がそのようなことをするので赤ん坊を狙おうとカメムシが落下しても、このようになってしまうのです」と。

 監視カメラに東軍のカメムシの精鋭たちが一斉に360度からサラリーマンの夫の膝に抱かれた赤ん坊めがけて飛んでいく。サラリーマンの夫はカメムシが飛んでくるとガムテープを新体操のリボンのようにひらひらさせて、1匹残らずカメムシを捕獲した。そして、何事もなかったかのようにガムテープをまるめてゴミ箱へバスケットボールのようにロングシュートする。「これがかなりの強敵なのです・・・」とスルガは頭を抱えた。

 サスケとシンゾーが赤ん坊の硬い毛を抜いたのに成功したら、この民家の脱出についてはスルガがあらゆる手を使ってでも脱出させることは問題ないとスルガは語った。カメムシの事務方が調べ上げた図面や建物の構造図などがスルガ専用の個室にはところ狭しとと貼られてあった。しかし、赤ん坊の硬い毛を抜くための効果的な作戦はまったく思い浮かばないとスルガは嘆き、サスケとシンゾーにお任せするので武運を祈る、とスルガは机の上にひれ伏した。サスケは簡単に作戦を立てた。

 「シンゾー、ミカンの中に潜り込むべ」

 スルガは「あ!!」という顔をした。まったくその考えがこれまで思い浮かばなかったからである。

 「あいあいさー」

 とシンゾーは言ってワニのパジャマのお尻から忍術ドリルの術を使い床に穴を開けた。サスケは「もう日があまりないからすまんな、スルガくん。貴殿の個室の床に穴を開けて。聖書をわざわざ届けてくれてありがとう。ミカンの中での待ち時間が長くなるから、今日は新約聖書を読むのがとても楽しみだよ」と語って、天井からシンゾーと共に民家の居住空間に降りて行った。ミカン箱を見つけるまで30分以内。しかし、サスケとシンゾーは息がぴったりの連携プレーで、いとも簡単に台所のミカン箱を見つけた。監視カメラでその様子を見ていたスルガは時計を見ながら驚いた。「わずか2分でミカン箱を見つけ、中に入り美味しそうなミカンのひとつにもぐりこむことが出来る。さすが猿飛家のサスケ様とウポポ様の父上、霧隠家のシンゾー様じゃ・・あのお2人なら本当にやってくれるかもしれない。これまできた東軍の精鋭たちとはあまりに格が違いすぎる立ち居振る舞いじゃ!!」とつぶやいた。事務方のカメムシたちも「すげえ・・」とみんなが口々にサスケとシンゾーを褒めたたえた。そのころ、サスケはミカンの中でふわふわのミカンの白い皮をベッドに聖書を読み、シンゾーはミカンに穴をあけて美味しくミカンをいただきながら夜を待っていた。ここであれば臭いも隠せるし、ミカン臭もついて絶好の隠れ場所だ。

 それから夜になり、電話が鳴った。サラリーマンの妻が電話の受話器を持ちながら、このように語った。

 「そう、しょうがないんじゃない?わかった。気をつけて行ってきてね」と。

 それからサラリーマンの妻は赤ん坊を抱きかかえ、こう言った。「パパね、今日は出張でお泊りなの。ゆっくりお休みしようね。今日はおひざだっこもミカン頭乗せもないから、ゆっくり寝るのよ。いい子にしていつもえらい、えらい」と。

 サスケとシンゾーは固まった。スルガも防犯カメラを直視しながら固まった。事務方のカメムシも手を止めて固まった。

 2日目:赤ん坊の頭から硬い毛を抜いて民家から脱走する

 あえなく3日目に持ち越しのミッションとなったのである。

#23 Kamemushi Rider "3rd day"

 3日目:関ヶ原に移動する

 今日のミッションは2日目のミッションである赤ん坊の頭から硬い毛を抜くというものと合わせてミッションを行わねばならない日となり、民家に潜む西軍のカメムシたちは焦りに焦っていた。ミカンの中に潜むサスケは聖書に熱中し4つの福音書を読み進めていたが、シンゾーのスマホには頻繁にスルガからLINEでメッセージが連発で届いていた。真面目なスルガは、サスケとシンゾーが無事に硬い毛を抜き取って脱走を昨夜中に出来るものと信じて、スルガの忍術であるツタの術を使い、ありとあらゆるところにクモの糸のような透明なツタを天井や民家の茶の間に張り巡らせていた。完璧に仕上がったとたん電話が鳴りサラリーマンの出張が決まり、サラリーマンの妻がエアロビを始めたのでスルガの張り巡らせたツタはあっという間に崩壊し今晩また作り直さなければならないとのことになり、スルガはシンゾーに脱走ルートについては、ああだこうだと様々な頭の中に浮かぶシュミレーションをシンゾーにラインで送っていた。シンゾーは眠くなり眠ってしまった。すると車の音がしてサラリーマンが昼過ぎに帰ってきた。サスケが老眼鏡をかけなおし聞き耳を立てていると、サラリーマンは出張2日目の予定をこなそうと電車に乗ったら商談先にコロナが出てしまって今日の商談がなくなり本社に確認したら日曜日に半日出勤した分を振り替え休日にしていいと言われてサラリーマンが帰ってきたとのことであった。スルガはシンゾーからこのことをLINEで知らされ「まだ脱走ルートを作ってなかったのに・・」と四つ這いになって落ち込んだ(カメムシなので四つ這いは自然な姿勢ではあるが・・!)。

 サラリーマンは荷物を置きスウェット上下に着替えて赤ん坊を抱き、ミカン箱の中からサスケとシンゾーが潜んでいるミカンをわしづかみすると赤ん坊の頭の上に乗せて茶の間の座椅子に座りテレビをつけた。サスケは「チャンスだ」と小声で言った。シンゾーはミカンの皮に自分たちが出入りする穴を静かにドリルで開け、サスケとシンゾーが急いで赤ん坊の頭の表面をかけまわり東軍の総大将を倒す秘策の「硬い毛」を探したが、ほとんどの毛がやわらかかった。赤ん坊はサスケとシンゾーが頭の上をかけまわるので頭がかゆくなり、「バッブー!」と言って頭を両手でシャンプーをするようにかこうとした。すると父親がテレビをみながら赤ん坊の両手をつかんで「そんなにお父ちゃんにくっつきたいか~」とデレデレした。赤ん坊はあらんかぎりの恐い顔で父親にメンチをきってにらみつけていたが、父親は録りためていたテレビの録画に夢中で赤ん坊のメンチに気がつかない。両手をおさえられたままの赤ん坊の頭の上でサスケはシンゾーに言った。「ミカンじゃねえか!」と。

 サスケとシンゾーがミカンの中に戻ると、硬い毛がミカンの赤ん坊の頭との接着面からミカンの中に突き出ている。つまりミカンが硬い毛に突き刺さって、完全にミカンが赤ん坊の頭にフィットしている状態だったのである。次に出てきた問題はどうやって抜くか、の問題だった。サスケもシンゾーも知恵が湧かず、シンゾーは急いでスルガにラインでことの状況を伝え硬い毛を抜く方法を調べてもらった。しかし、完全に抜いてしまうと赤ん坊が大泣きし大変なパニックになることもあるからどうすべきか・・と危険予測しかスルガからの回答にはなかった。

 サスケはシンゾーに「俺が合図したら毛を抜け」と言った。シンゾーはサスケは頭で考えた作戦ではなく行動で示す作戦を決行するとのことを肌で感じていた。サスケが「俺の忍術をここで出す」とシンゾーにサスケの忍術の内容をあきらかにしてミカンの中から瞬時に消えた。シンゾーは民家の庭先の雪の中に閉じ込められたときにサスケが忍術を使わなかった理由が瞬時にそこでわかった。サスケは凄まじいスピードで赤ん坊の鼻の中に入り、人間には聞こえないがカメムシには耳がつんざかれるようなでかい吠えたける声で吠えた。すると通常のカメムシの数億倍の臭いがサスケの全身からあふれだし、最後のとどめにプスッという小さなすかしっぺが鳴ると、赤ん坊は白目になり気を失うのだった。「いまじゃ、シンゾー!」とサスケはミカンの中にもどった。シンゾーは硬い毛の毛根にドリルを当て、サスケが毛先を思い切り引っ張った。すると、硬い毛がバラバラっとトウモロコシの皮がむけるように四方にほどかれ、中からカメムシ・エクスカリバーと手書きで書かれた錆びた剣が出てきた。サスケがジャンプしてその錆びた剣を引き抜くと錆が一瞬で剥げ落ち、すさまじくかっこいい剣がミカンの中で光り輝いた。サスケが背中にその剣を収めると、シンゾーは感動して写メを何枚も撮っていた。ラインではスルガが「急いで脱出してください!」と何度もメッセージを送っていたのだがサスケは剣を背中にさして、トレーニングジムのマッチョの人がするようなポージングをしながらシンゾーに写メを撮られ喜んでいる。その間に異変に気がついた父が赤ん坊をゆさぶり、ミカンも地面に落っこちた。赤ん坊はその音で目覚め「んー!」とうなって、みかんを指さし、サラリーマンの妻にハエ叩きの指令を即座に出した。サラリーマンの妻は赤ん坊が気絶しているのに気がつかないサラリーマンに腹を立てていた。ミカンの方向に突進し、ブジャっとミカンを思い切り踏みつぶした。

 

 カメムシライダー、終了。ご愛読ありがとうございました。

 

 ・・・というは冗談で、続きがあって「もうミカンを赤ちゃんの頭に乗せるのはやめて!農薬とか心配じゃないの!頭にミカンの形で髪が生えてこなくなったらどうするのよ?!」とカメムシには轟音とも思えるような金切り声でサラリーマンの妻が吠えた。サラリーマンは「ミカンを踏みつぶすまでしなくたっていいじゃないの!言えば俺だってわかるよ!」と立ち上がって怒り始めた。すでにサスケとシンゾーは踏みつぶされたミカンから脱出していた。サスケの指示で、サスケはサラリーマンに、シンゾーはサラリーマンの妻に、それぞれの鼻の穴の中に立っていた。そこで臭いがしなくなるパジャマを同時に脱いで、「せーの!」と言うと、ハムスターがくるくる回るように鼻の穴の中をくるくる回転しながら走りだした。サラリーマンとその妻はカメムシの臭いが死ぬほど大っ嫌いで、ベランダに出て何度も何度も大きなくしゃみをし、サスケもシンゾーも無事に民家を脱出した。一方、天井ではスルガと事務方のカメムシたちが涙を流し抱き合ってモニターをみながら感動していた。まるで世界のベースボール大会で自分の国が優勝した時のようなすさまじい喜びようだった。スルガは「さすが伝説の猿飛と霧隠の忍者だ・・」と大粒の涙をこぼしガッツポーズをしていた。

 シンゾーが民家の外でスマホのラインに目をやると、スルガが指示する小高い丘の上にカルベネ一家が待っていた。みんなが喜んで肩を叩きあった。サスケとシンゾーがカルベネ一家とともに茂みの中を歩いて降りると、スルガ達によって人間が捨てたプラスチックのゴミを精巧に組み立てて作られた船が、用水路に停留していた。一行はその船に乗り込み、船がつながれていたロープをほどくと、すごい速度で船は川へと流れて行った。カルベネ一家のドンはサスケとシンゾーに言った。「この船の船長はおらに任せてゆっくり休んでてほしい。サスケどんとシンゾーどんがあの民家から脱出するまでの間にスルガどんから操縦方法も、関ヶ原までの航路も十分に聞いておったが、今夜はものすごい大嵐になるべ。んだがら、関ヶ原に行くには大嵐だげんども、今日が絶好のチャンスだべ!うまぐいげば明日の朝には関ヶ原だ!ちょっと揺れっかもしんねげんど、今晩は明日のミッションにしっかり備えてやすんでてけろや!」と。サスケとシンゾーはその言葉に甘え、毛布にくるまってゆっくり休むことにした。天候はどんどん怪しくなり、大粒の雨が降り出した。ドンは船長として大嵐に挑んでいった。

 3日目:関ヶ原に移動する

 このミッションは見事なチームワークにより、無事に関ヶ原への航路にたどり着くところまで進んだのであった。

#24 Kamemushi Rider "4th day"

 4日目:関ヶ原の潜入に成功する

 本日のミッションは関ヶ原への潜入であったが、夜明けにドンはコーヒーを入れ、こなごなになった船の上に座って川を流れていた。サスケもコーヒーをドンの隣ですすりながら夜明けを見ていた。シンゾー、ドンの妻のローザ、長女のアネモネ、末っ子のポルカ、ペットのシロアリは船底で眠っており、あたりは嵐もやんで静かでおだやかな朝となっていた。しかし、昨夜の嵐で船の上にあった帆を含むすべてが倒壊し、昨日の嵐のすさまじさを物語っていた。

 ドンにサスケは言った。「洗礼を授けてくれないか」と。ドンは「そろそろかと思っていたべ」と言った。サスケは白雲斎のもとで育てられたが実の父がクロアゲハ蝶たちが暮らす里に入り浸り帰らなくなり、母やサルコと共に母子家庭のような状態でずっと過ごしていたこと、その父を勘当した白雲斎が修行のたびに、サスケの父の忍術についての天才ぶりを聞き、嫉妬ばかりしていたこと、白雲斎が自分よりも父を高く評価していることへの焦りから素行不良となり、白雲斎からの忍術の修行に意欲がわかなくなり、型通りの忍術で父を超えるのではなく自分流の忍術を体得したいと白雲斎の里から逃げ出し、猿飛の家を継ぐことの一切を放棄する書置きを残したことを話した。白雲斎はアカリを猿飛家の当主に置くべきだとの周囲の声を跳ねのけてサスケの帰りを待っていた。アカリがサスケの心にテレパシーの術でサスケが聞かずともサスケの心にだけ伝えてくれていたのであった。白雲斎はシャークに倒されるまで、何度もサスケに悪いことをしたとアカリに話した。サスケが作る味噌汁が白雲斎は好きだった。最後に白雲斎の好きな青紫蘇が味噌汁には入っていた。アカリも真似して入れてみたが、微妙な切り加減の角度の違いで味が変わるものだ、と白雲斎は話していたそうだ。そしてサスケを鼓舞するためサスケの父の話をしていたが、サスケにはサスケの父以上の潜在能力があるのだ、と白雲斎は語っていたと言う。サスケは聖書を読み、これまでの人生を振り返り、本当の自分の救い主がわかったとドンに語った。ドンは静かに流れる川の浅瀬に船を寄せて、みんなが起きないようにサスケに船から降りるように話し、ドンも川に静かに降りて、サスケに洗礼を授けた。サスケは水につかり、水からサスケが顔をだした。ドンは心をこめて祈った。夜明けに山の頂から太陽が昇り、サスケとドンは笑顔になった。

 その頃、アカリとサルコが潜んでいるトロフィーを守ろうとスイゾーは必死でバリアの術を繰り出していた。トロフィーのまわりにだけ防弾ガラスか?というほどのスイゾーの繰り出すガラスが積み重ねられていた。スイゾーは「硬くて黒いガラス・・」と疲労した声で忍術でガラスを繰り出し、そのガラスの上に1枚1枚積み重ねていた。数にして数万枚のガラスがトロフィーのまわりを囲んでいたのである。アカリとサルコが息ができるよう、わずかに空気穴を作りながら作業を進めていた。ブルドーザーがトロフィーを壊さないよう、ブルドーザーの運転手が待機するプレハブ小屋の床下にトロフィーを運んで作業を進めていた。トロフィーの存在に気がついた東軍がやってきたときに気がつかれないよう、ガラスの色はすべて黒にしていた。スイゾーはサスケとシンゾーが必ずアカリとサルコを助け出してくれると信じていた。寝ずに休まず働き続けた。

 関ヶ原に向かう途中で洗礼を受けたサスケは、ドンとともに関ヶ原に潜入する作戦を考えていた。忍術を使えないドンの一家とは関ヶ原につく前にお別れし、ドンの一家が西軍と合流し、サスケとシンゾーは東軍に変装して潜入するという案と、ドンの一家もサスケもシンゾーも西軍にそのまま入り、ウポポやサイゾーたちとともに、真正面から東軍にぶつかっていくという案の2つがあった。どちらがよいか悩むサスケにドンが提案した。「わたしたちが西軍に行った場合、西軍の後方にいるウポポさんやサイゾーさんのところに入ったのでは時間がかかりすぎてサルコさんやアカリさんが助からねえべ。西軍の最前線がどこなのか、シンゾーどんのスマホを勝手に借りて仲間とライングループ作ってやりとりしたんだが、西軍の最前線にはキリシタン大名のモチッチというお殿様がおるべ。そこに入っていくというのはいかがなもんだべ?」と。サスケは風向きを見ながら言った。「この向きでいくとあと1時間で関ヶ原。矢が飛ぶ向きは午前が東軍に有利だが、午後は西軍が有利になる。つまり午後になると西軍の方から東軍に風が吹く算段だ。モチッチ殿とは、まだ会ったこともないが、モチッチ殿と昼までに協力しあえることになれば、東軍に思い切り大打撃を喰らわせることができるかもしれん!」と。ドンは「それはいい考えだべ!」と立ち上がった。ようやくシンゾーとドンの家族たちも目を覚まし船底から眠そうな顔で盛り上がるドンとサスケのもとにやってきた。ドンは「これから1時間で関ヶ原だべ。みんなで朝ご飯にすることにしよう!」と語った。

 そして関ヶ原に到着。

 4日目:関ヶ原の潜入に成功する

 というミッションは無事に成功したのだが、西軍の最前線にある「モチッチ」と書かれた旗をたよりにモチッチの陣営にサスケ、シンゾー、カルベネ一家が入っていくと、そこには甲冑を着せられたワラ人形が数体おいてあるだけで誰もいなかった。シロアリがワラ人形のまわりをうろうろして足にかぶりついた。すると地面からワラ人形を被った西軍のカメムシの大軍がサスケたちのまわりを瞬時に囲んだ。モチッチは敵をあざむく天才的なカメムシの忍者だった。

 サスケの父の親友でもあった。

#25 Kamemushi Rider "5th day(1)"

 5日目:東軍の将軍を倒す

 5日目のミッションは、東軍の将軍を倒すとのことであったが、これには大きな障壁があった。将軍ヤジローの陣営まで、鎧のカメムシと呼ばれる鍛え上げられたカメムシの軍隊が鎮座しており、突破しようとしても鉄壁の守りが崩れないというのだ。将軍ヤジローの陣営を360度囲んでおり、まるで隙がない。モチッチは火攻め、水攻め、矢攻め、様々な策を繰り出したが鎧のカメムシは鉄壁過ぎてまるで突破口がなかったと言う。

 サスケは5日目の朝に、モチッチと初めて会い、語らったことを思い出していた。サスケたちの素性を知るとワラ人形を被ったカメムシの軍団は即座に特別な客人としてモチッチの前にサスケたちを案内した。モチッチは、サスケの顔をまじまじと見て言った。「あんたがサスケか!あんたの親父にはクロアゲハの里で知り合って、ともに修行した仲間なんじゃよ!」と。クロアゲハの里と聞いてサスケの表情は曇ったが、モチッチの話を静かに聞くことにした。父のことが何かわかるかもしれない。すると、モチッチはサスケと二人で話したいと周囲に伝え、ワラ人形を被ったカメムシたちが藁で小さな古民家風の殻ぶき屋根の家を作り、モチッチとサスケを案内した。そこには囲炉裏があり、モチッチはサスケに暖をとるよう風下の席に座らせ、ゆっくり語りだした。サスケが聞く話は衝撃的なものだった。父はクロアゲハ蝶のいる里に入り浸り帰らなくなったと聞いていたが、クロアゲハ蝶の里は、猿飛の家では決して近づいてはならないと掟があるほど危険視されており、そこから帰ってきた者はいないと言われるほど謎に包まれた里であると言う。モチッチは自分も反骨精神で自分の忍術の里からクロアゲハ蝶の里に向かったが、恐ろしい修行が待っていたと言う。そこではクロアゲハ蝶の繰り出す様々な試練や誘惑に耐えた1匹のカメムシだけがクロアゲハ大カメムシとなることが出来るとの伝説があり、数多くのカメムシ忍者の実力者たちが挑戦したが、すべて失敗に終わりクロアゲハの里から戻ってきた者が1匹もなかったと言う。モチッチは誘惑に強く、試練に弱かった。サスケの父は誘惑に弱く、試練に強かった。互いに弱いところを助け合い、クロアゲハの長老に認められた。そして、最後にモチッチとサスケの兄がクロアゲハの長老の前で闘った時、サスケの父はモチッチを瞬殺で倒した。モチッチはとどめを刺せ、おまえがクロアゲハ大カメムシになるのだ、と大声を上げた。しかしサスケの父が大声で泣いていた。「勝負あり」とクロアゲハの長老は言い、サスケの父はさらに頂上の山奥へと連れていかれ、モチッチは勝利したサスケの父のこのあとの運命を聞いたと言う。

 「そのあとの運命って?」とサスケが尋ねると、モチッチは背中の大きな傷を見せて言った。「わしはクロアゲハの里でクロアゲハの凄さを知った。幻影や妖術のような凄まじい忍術によって、わしの背中もそれから下山するのは一筋縄ではなかったわい。わしはクロアゲハ大カメムシにはなれんかったが、クロアゲハの里で修行したことは無駄にはなっておらん。幻影や妖術で多くの同胞たちと切りあった。中には昔からのなじみの奴もいたんじゃ。しかし、みんなクロアゲハ大カメムシになりたがっていた。じゃから、悔いはなかったんじゃ。しかし下山の途中で多くの同胞たちを弔いながら、わしは生き方がこれでよかったのか?と、とても悲しくなったんじゃ。そこで大昔に読んだ聖書が読みたくなって、下山してから読んで信仰をもつようになり今に至るんじゃよ」と。サスケは深くうなずきながら、山に連れていかれたサスケの父が何を目指していたのかとても知りたくなった。そしてモチッチに尋ねた。「なぜモチッチ殿はクロアゲハ大カメムシになりたかったんですか?」と。モチッチは静かに答えた。「それはおぬしの父も同じじゃろうが、世界を平和にするためじゃ。単に自分の忍術の里で自分だけが強くなればよい、ではもう限界じゃないかと感じて集まってきた奴らばかりじゃった、クロアゲハの里は。しかし、クロアゲハ大カメムシになるには、大きなリスクが伴うことも修行中に知った。思えばわしがおめえさんにこれを語るため、おぬしの父はわしを生かしたのかもしれん。クロアゲハ大カメムシになれば最強のカメムシとなれるが、記憶もすべてなくすんじゃ。おそらくもうおぬしのことも覚えておるまい。もうおぬしの父はいないんじゃ」と。

 サスケは膝の上で拳を強く握りしめていた。いつか父をこの手で殴ってやりたい。そして赦すことができるならこの手で抱きしめたいと心のどこかで思っていたからである。「では父はどこに?」とサスケは聞いたがモチッチは「その後のことはわからない」と答えた。サスケは聖書に書かれていた放蕩息子の話を思い出していた(#20後半参照)。自分が父を許せなかったのは、放蕩息子の兄のような気持ちになっていたのではなかろうか、父の思いを知らず心で責め続けたことをサスケは心の中に刻み込んでいた。

 その後、モチッチはサスケと共に陣営に戻り、シンゾーやカルベネ一家、モチッチの軍の精鋭の幹部たちで作戦会議を開くことにした。サスケとドンが考えていた矢攻めについてはすでにモチッチの軍が行い効き目がなかったことを知らされ、新たな策が必要となる状況だったが、鎧のカメムシの隙の無さに太刀打ちできる策を思い浮かぶものが出ず、しばらく沈黙の時が続いていた。「時はいま」と子供のポルカが言った。「え?」みんなが振り返るとポルカは「なんか歌いたくなって言ってみただけ。歌詞ができたんだ」と笑みを浮かべた。するとサスケがその言葉に引っ張られて立ち上がった。「モチッチ殿の忍術はなんですか」とサスケが聞くとモチッチは「わしの忍術はわし以外のカメムシを小さくすることができる忍術じゃ。しかし1日に1匹だけじゃ。忍術で小さくして鎧のカメムシの隙間を誰か通り抜けられないか希望者を集って、やってみたんじゃが鎧のカメムシたちは互いの体をしっかりくっつけており、通れずにもどってきたんじゃよ。わしの忍術は役に立たん・・」と答えた。するとサスケは「もう一度それをやってみませんか。わしが小さくなる。そしてわしに作戦がある。みんなでわしが鎧のカメムシの間を通れるように鎧のカメムシに隙を作るよう油断させてほしいんじゃ。演目はこれじゃ!!」と。

 それからモチッチの全軍は鎧のカメムシの目の前に陣取った。小さくなったサスケはちょぼちょぼ鎧のカメムシの方向に向かって歩き出した。最初はカルベネ一家がジプシー音楽を披露した。鎧のカメムシは反応がまったくなく無言なのに音楽が終わると一斉に拍手した。次にモチッチの軍の精鋭たちがお笑いコントを繰り出すが、鎧のカメムシたちは笑いにはシビアでコントが終わってもまったくの無反応だった。次にカルベネ一家の長女のアネモネのソロコーナーが始まり、現代風のダンスをヒップホップ風に踊った。鎧のカメムシたちも微妙に揺れながら踊っており、鎧のカメムシの足元で小さくなったサスケが「よち、チャンスぢゃ(忍術で小さくなると自動的に赤ちゃん言葉になる)!」と隙間を通ろうとするが、鎧のカメムシたちは踊りながらであっても満員電車以上に隙がまったくない。演目がどんどん終盤にさしかかり、ネタが突きそうな頃モチッチの軍たちは「今回もやっぱりダメか・・」とみんながため息をついていると、とんでもないことが起こった。

 「トイレ、トイレ、トイレ」と唱えながら、サスケ、シンゾー、スイゾーと共に旅というかただ乗りしてきた芋虫ばあちゃんがどこからともなく現れ、鎧のカメムシの方向に向かっていく。鎧のカメムシが不機嫌そうに芋虫ばあちゃんをにらみつけるが「トイレ、トイレ、トイレ」と満員電車をかきわけるようにいとも簡単に芋虫ばあちゃんが鎧のカメムシをよけさせている。鎧のカメムシは知性があまり高くなく、簡単なことにはすごく理解力がある特性があったのだ。芋虫ばあちゃんはサスケの方をにらんだ。サスケは「時はいま~」と小さな声でポルカの思い浮かんだ歌詞を口づさみながら、芋虫ばあちゃんの背中に飛び乗った。「トイレ、トイレ、トイレ」と芋虫ばあちゃんは鎧のカメムシの大軍の中をすりぬける。鎧のカメムシは親切にも「あっち」と指さしてトイレの方向を指で示している。それはあろうことか、将軍ヤジローのいる陣営の目の前であった。サスケから見て遠くなるモチッチの陣営では、望遠鏡をのぞきこんでモチッチが周囲に状況を伝え、そのころ鎧のカメムシがまったく喜ばないお笑いコントの演目中だったが、サスケが将軍の陣営に向かっていることをみんなが喜んで、「ふとんがふっとんだ!」と吠える古典的なダジャレを言ったカメムシに対して、ものすごい声援がモチッチの全軍から鳴り響いた。それはサスケへのエールだった。

 5日目:東軍の将軍を倒す

 今回は5日目の前半である。時は夕方から夜に差しかかっていた。芋虫ばあちゃんの背中に乗ったサスケは夕陽を見ながらエクスカリバーを太陽にかざしていた。仲間たちのエールが聞こえていた。サスケは父を許し、自分がこれから行う新たな使命に燃えていた。それは忍者サスケが放浪していたときとはまったく違う、勇者サスケの表情となっているのだった。

#25 Kamemushi Rider "5th day(2)"

 5日目:東軍の将軍を倒す

 5日目のミッションは、東軍の将軍を倒すとのことであったが、後半にいよいよ進む。将軍ヤジローの陣営まであとわずかのところにあるトイレに向かって、鎧のカメムシと呼ばれる鍛え上げられたカメムシの軍隊の真ん中を堂々と芋虫ばあちゃんはゆっくり進んでいた。その背中にはモチッチの忍術で小さくなったサスケが背中に乗って順調に陣営の中に入っていった。

 将軍ヤジローの陣営を360度囲んでいた、鎧のカメムシの軍勢の中を芋虫ばあちゃんが進むのを見てさすがに将軍ヤジローの陣営も異変に気がつき将軍ヤジローにまでその話が届いていた。ヤジローは将軍の護衛にあたる精鋭中の精鋭、四天王と呼ばれる4匹に状況を見に行き、怪しいところがあればすぐに始末するよう命令した。四天王は風のような速さで芋虫ばあちゃんが向かうトイレの前に移動し待ち構えていた。

 トイレに向かう芋虫ばあちゃんとサスケはのどかな会話をしていた。サスケが「黒部ダムは見に行けたのか?」と聞くと芋虫ばあちゃんは「ああ、とってもよござんしたよ。冥途の土産にと思ってましたがあんなに絶景だとは思ってもなくて、道中の景色もとっても綺麗でした~」と答えた。芋虫ばあちゃんは「サスケの社長のお連れさんのシンゾーさん、スイゾーさんはお元気でしたか?」と聞くと、サスケは「シンゾーはモチッチの軍にいて、何かあったらこっちに応援に飛んでくる。スイゾーは大切な任務をまかされて今とてもがんばっている」と答えた。芋虫ばあちゃんは「あらまあ、ご出世されたのね。安心しました~」と答えた。そして、サスケは芋虫ばあちゃんにモチッチの忍術は夜になると効果がなくなり、もとの姿になるので夕暮れのうちにトイレについて、トイレでサスケは隠れ、芋虫ばあちゃんは戻ってくれと伝えた。「りょ」と芋虫ばあちゃんは微笑んで言った。すこし若者の使うような言葉を黒部ダムで覚えたのだと芋虫ばあちゃんは楽しそうに語った。

 トイレの目の前に来ると四天王のカメムシが目の前に現れた。芋虫ばあちゃんも体が大きかったが、四天王のカメムシも体がとても大きく、四天王のうちの一人が「おい、待て」と言って芋虫ばあちゃんの頭を足で踏みつけて言った。「おい、おまえは何者だ、ここをどこだと思ってるんだ?答えないとトイレに行かせないか、答えようによっては始末するぞ」と。芋虫ばあちゃんは黒部ダムで買ったお土産を出してすがるように言った。「わたしは旅行中の者です。黒部ダムに行ってその帰りにトイレに行きたくなって、このあたりはどこにもお店がなかったからトイレ借りられなくて、トイレ貸してください」と。四天王のうちの一人が「放してやれ、あやしいもんではなさそうだ」と言った。芋虫ばあちゃんが出したお土産が孫にプレゼントしようと小さな子供が喜ぶカメムシ忍者のオモチャだったからである。そのオモチャのふりをしていたのは、サスケだったのだが。アドリブがうまくいき、芋虫ばあちゃんはトイレに無事に入ることが出来た。サスケもトイレの個室に入り、鍵を閉めそこで夜を待つことにした。夕陽がもうすぐ落ちるまであとわずかというところだった。

 芋虫ばあちゃんがトイレから出てすぐにサスケの目の前で芋虫ばあちゃんは串刺しになった。サスケは急いで鍵を開け、芋虫ばあちゃんの目の前に駆け寄った。四天王たちがトイレの屋根からジャンプして、四方から芋虫ばあちゃんを長い槍で刺し始末したのだった。四天王のうちの一人が「店がないと言っていたがここから50km先にカメムシの携帯ショップがあったろう。このばあちゃんの動きじゃ何日もかかりそうじゃが、近くにないと言ったがそれはあやしかったとして始末しておけばあやしまれまい」と言った。サスケは倒れて息を引き取ろうとしている芋虫ばあちゃんに語りかけた。「すまん、すまんのう、俺が巻き込んでしまった、本当にすまん・・・」と。芋虫ばあちゃんは薄れゆく意識の中でサスケにこう語りかけた。

 「サスケ、サスケや、わしじゃ、わしじゃ」と。サスケは耳を疑った。芋虫ばあちゃんの声が太くなり、サスケにこう語りかけてきたのである。「わしじゃ、父じゃ。サスケ、おまえの成長をこんなに近くで見れて、わしは幸せじゃった。ありがとうな、ありがと、う、な・・・」と。芋虫ばあちゃんは絶命し、夕陽もその瞬間に落ちた。サスケは、自分の父が芋虫ばあちゃんの姿になって自分とともに旅をしてきたことを知った。大粒の涙を奮い、「おい、待ちやがれ」と四天王に声をかけた。

 四天王が振り返るや否や、すごい速度でジャンプし、四天王の振り返りざまの心臓を次々と瞬時に剣で貫いた。四天王は将軍に継ぐ東軍最強の忍者だったのだが、名を名乗る前にサスケによって瞬殺され、絶命した。将軍の陣営にいる全軍のカメムシがサスケの存在に気がついた。一騎当千。数十万匹いるカメムシの大軍VSサスケ1匹との状況となったのだが、サスケは「かかってこい」と吠えたけた。カメムシの大軍勢がサスケ一人に向かってくると、サスケは十分ひきよせたところで、サスケの忍術をぶっぱなした。ミカンを乗せた人間の赤ん坊が白目をむいて気絶するほどの威力の臭いの何百倍もの全力の臭いをサスケは放った。

 その結果、東軍の全軍のカメムシも、遠くでダジャレを言って笑っていたモチッチの軍も二次被害で全部のカメムシが白目をむいて気絶した。サスケはゆっくり東軍の将軍のもとまで歩いていき、どのカメムシが将軍か確認したあと、その顔の目の前で「プスーッ」とすかしっぺをし、とどめをさした。将軍は「うぅ・・!」と言って絶命した。将軍以外のカメムシたちは目覚めるまで1週間はかかる重症となった。二次被害を喰らった遠くにいたモチッチの軍も目覚めるまで3日はかかるほどだった。モチッチの軍にいたシンゾー、カルベネ一家も無事だったが3日間は気を失ったままだった。

 5日目:東軍の将軍を倒す

 このミッションは無事に終了した。サスケは将軍を倒し、最後の敵である東軍の総大将シャークを倒そうと敵の陣地で、総大将シャークのいる場所についての手掛かりを探していた。しかし、すかしっぺで絶命した将軍は、実は替え玉の影武者だった。サスケはミッションを終えて手掛かりを探し、シャークを倒せばゴールなのだと思っていた。夜明けまで眠らず東軍の陣営に置いてあった文書や巻物、連絡用のタブレットを必死で探したが、まったく手掛かりは見つからなかった。

#25 Kamemushi Rider "6th day(1)"

 6日目:東軍の総大将を倒す

 サスケは6日目のこのミッションを前に、逃げ出した。自分の忍術で東軍もモチッチの軍も眠りについている間のことだったが、東軍の総大将のシャークの居場所がどうしてもわからない。孤立無援となり、時間的余裕がまったくない焦りから「もう自分では無理なんではないか・・」と6日目の朝に嘆き、あきらめてしまったのである。

 サスケは関ヶ原から砂漠のようになっている工事現場となったさら地を歩き続けていた。その間、自分が逃げ出してしまったことへの後悔の念が押し寄せ、葛藤していた。逃げ出そうとしたときの行動を思い出していた。サスケはあんなに会いたかった父が実は芋虫ばあちゃんだったこと、ほんの一瞬しか話せなかったことを思い出し、逃げ去る前に芋虫ばあちゃんの亡骸のそばに行き芋虫ばあちゃんの亡骸を抱き上げた。それは脱いだ服のようになっており、すっかりしぼんでいた。芋虫ばあちゃんの亡骸をサスケは地面に手で穴を掘って埋めた。それから2次被害を受けて横たわるモチッチたちの軍に向かって深々とお辞儀をして、その場を去った。しかし、あれでよかったのだろうか。「もう自分では無理なのだ、この任務は・・」と逃げ出す前に思ったのだが、今は「去り際の行動があれでよかったのだろうか」との後悔に変わっていた。

 工事現場を通り過ぎ、大きなスクラップ工場を抜け、雨が降ってきたので古い建物の下に潜り込んだ。ここでじっとしてしばらく雨宿りしようと思った時に、「黒の固いガラス出てこい!」との声が聞こえた。振り返ると瘦せこけたスイゾーが必死でサルコとアカリが中にいるトロフィーを隠そうと痩せこけて、ずっと何も休まずに忍術を繰り出している姿があった。「ここだったのか・・」とサスケは身をかがめ隠れてスイゾーの姿を見ていた。芋虫ばあちゃんの声が頭の中に響いた。「サスケの社長のお連れさんのシンゾーさん、スイゾーさんはお元気でしたか?」と。シンゾー、スイゾーと車に飛び乗って旅をしたときのことをサスケは思い出していた。ヘマをしても目がなかったスイゾーが人知れぬところで頑張っている。そして芋虫ばあちゃんはともに旅をしながら、サスケの成長をかみしていてのだ。サスケは一度も会ったことがなく、白雲斎から聞く父親像しかなかったが、勝手にクロアゲハの里でアゲハ蝶と遊びほうけることに夢中になり家族を捨てた父としか思っていなかった。スイゾーは倒れこみ息を切らしながら「まだまだ、あと半分!」と言って立ち上がり忍術を繰り出した。サスケは膝の上で拳を握った。「自分はいまここで何をしているのか」と。すると、サスケの背後に大きなトンボの鬼ヤンマが2匹、サスケの顔をのぞきこんでいた。サスケは腰をぬかすほど驚いたがスイゾーに自分の存在がばれないよう黙って面食らっていた。

 鬼ヤンマの頭から西軍の総大将となったウポポ、シンゾーやスイゾーの兄である霧隠家の当主サイゾーがサスケの前に飛び降りた。そしてサスケの両脇に静かに飛び降り、サスケに小声で話した。ウポポがサスケの手をつねりながら語った。

 「目を覚ましてよ、サスケおじさん!いまスイゾーさんがあんだけお姉ちゃんやお母さんのため頑張ってくれてるの。サスケおじさんはここまでよくがんばったじゃないの。どうしてここであきらめちゃうの」と。続いてサイゾーが語った。「サスケの兄貴、おひさかたぶりです。戦局はいま西軍が圧倒的に不利です。サスケの兄貴が倒した将軍は替え玉で影武者でした。そして東軍はコッコ(黒虎)、ビャッコ(白虎)というサスケの兄貴が倒した四天王の上にいる奴らが軍を率いて、我々が誇るカマキリの卵作戦も完全に撃破され、ウポポ様の総本陣のある山が東軍にすでに囲まれております。将軍と総大将はおそらく一緒にいると思いますが、どこにいるか我々にも見当がつきません。でも手掛かりを知る者にも会いました。その者はサスケの兄貴に会うまでは話せないと言っています。我々西軍の総本陣のこれまでの戦局ですが、かつて東軍の総大将のものすごいおたけびが関ヶ原に聞こえていましたが、いつの間にかそのおたけびも聞こえなくなっていました。我々はカマキリの卵を使って最初はとても優勢でしたが、黒虎と白虎の両軍があまりに強敵であちこちでカマキリの赤ん坊が倒されました。それを見た鬼ヤンマの部族が子供のカマキリの亡骸を見て奮い立ち、我々西軍に応援してくれることとなりました。私たちはトップガン作戦というものを決行し、全国から集結した鬼ヤンマの背中に西軍のカメムシを乗せて、総本陣から西軍のカメムシを安全な場所に避難させたので、いま西軍の総本陣はもぬけの殻です。我々は上空から東軍と闘うカメムシの精鋭たちの空軍の部隊を編成し、やっとサスケの兄貴を見つけ、全軍をあげて、ここに辿り着いたところなのです」と。

 サスケは驚いた。そして、静かに光のあるほうに歩きだした。すると空一面に鬼ヤンマの大軍が待機していた。雨上がり、空には大きな虹のアーチがあった。「綺麗じゃなぁ・・こんな綺麗な虹を見たのは初めてじゃ・・・・」とサスケは思わずつぶやいた。すると鬼ヤンマの大軍の真ん中から大きな黒アゲハ蝶が舞い降りてきて、サスケに小さな巻物を放り投げた。拾い上げてサスケが巻物を手に取ると、そこにはこう書かれてあった。

 『軍事機密・総大将のシャークは宮城県仙台市の青葉城にいる。将軍ヤジロー』

 サスケは目を疑った。「これは確かな情報なのか・・??!」とつぶやいた。すると黒アゲハ蝶が大声で言った。「何をしてる、サスケ!その巻物は黒部ダムに隠してあったんじゃぞい!」と。サスケは黒アゲハ蝶の背後に太陽があったのでまぶしくて目を手でおおいながら黒アゲハ蝶に尋ねた。「あんたは誰だ?」と。黒アゲハ蝶は大声で笑いながら言った。「まだわかんねえのかい、サスケの社長!俺だ!おまえの親父だ!!とっとと俺の背中に飛び乗って青葉城に行くからな!それでも俺の息子か!」と。黒アゲハ蝶は大粒の涙をこぼし、サスケの顔面を濡らした。サスケは「あったけえじゃねえかよ、あったけえよ、親父!」と言って黒アゲハ蝶の背中に勢いよく飛び乗った。すると黒アゲハ蝶を先頭に鬼ヤンマの大軍がものすごい速度で宮城県仙台市の青葉城めがけてぶっ飛んでいくのであった。

 6日目:東軍の総大将を倒す

 今回は6日目の前半である。すこし時をさかのぼる。芋虫ばあちゃんは絶命後、サスケが東軍の陣中で総大将の居場所を探していたころクロアゲハになって、サスケのいる上空を飛び立った。鬼ヤンマの背に乗り東軍の総大将を探していたウポポ、サイゾーたちと遭遇した。真夜中に霧の中に隠れる忍術をサイゾーは繰り広げ、あたりが霧に包まれた。そこでこれまでの経緯を互いに語り合った。

 二次被害を受けたモチッチの軍からはいびきがあちこちから聞こえた。シロアリだけ被害を受けず、モチッチとサスケが会見したかやぶきの家をむしゃむしゃ食べていた。ミシミシ、バターン!かやぶきの屋根が静寂の中で崩れて倒れても誰も起きることがなかった。さっきまでダジャレを言っていたカメムシが寝言で「亀を無視したカメムシ!」と言っても、誰も笑う者はなかった。シビアな静寂の夜だった。

 時をもどそう。サスケは父の背中に乗って、宮城県仙台市にある青葉城に向かいながら、再びエクスカリバーを太陽にかざした。「今度こそ、将軍とシャークを倒す!」と吠えた。続いて鬼ヤンマの背に乗るウポポが吠えた。「者ども、今日を持って西軍の将軍はサイゾー殿とサスケ殿の2匹に任命する!みな敵の本陣にこれから突っ込む。くれぐれもぬかるなよ!」と。

 鬼ヤンマの背に乗る西軍のカメムシの精鋭たちは「おーーーーー!!」と一斉に吠えまくった。

#26 Kamemushi Rider "6th day(2)"

 6日目:東軍の総大将を倒す

 今回は6日目のミッションの中盤になる。鬼ヤンマの全軍は全速力で宮城県仙台市に向かっていたが、関ヶ原から全力で向かってもさほどの距離しか移動できないことに気がつき、サルコとアカリの救出を考えるとゆっくりはしていられないとのことから人間の力を借りることにした。サスケ、シンゾー、スイゾーが車で移動したような方法では青葉城に確実に到着する保証がまったくないため、鬼ヤンマの背に乗りながらウポポ、サイゾー、サスケで話し合っていたがろくにいいアイデアが浮かばない。するとその会話を黙って聞いていた鬼ヤンマ軍を率いる鬼ヤンマのボンベイ大佐が近づいてきて、こう提案した。

 「我々、鬼ヤンマ軍は空を飛ぶ者のプライドとして、飛行機というものは使いたくない。しかし、わが軍には東京出身の鬼ヤンマの鉄道オタク軍曹という者がおり、奴はとにかく電車の乗り換えや時刻表にめっぽう強い。奴の先導で電車を乗り継いで宮城県仙台市を目指してはどうか?」と。

 「それは名案だ!」とサイゾーが拍手し、ウポポが「鉄道オタク軍曹をここに!」と言った。すると鬼ヤンマなのに、紐のように細いひょろひょろして大きな眼鏡をかけたトンボが飛んできて誰も口にださなかったが、誰もが「本当に大丈夫なのか?」と心の中でつぶやいた。軍曹というから鬼教官みたいなのが来ると思っていたからである。鉄道オタク軍曹は言った。

 「えー、ここから鉄道に乗るとするとUターンしないといけません。8:45分の関ヶ原駅で東海道本線に乗って、9:36に名古屋で新幹線のぞみ号に乗って、11:28に東京で新幹線はやぶさ号に乗って、仙台に着くのが13:00なので所要時間は4時間15分です。ちなみに僕は鉄道オタク軍曹という名前じゃなくてオオタ軍曹が本名です」と。

 一同は「よし、それで行こう!」と大きく旋回し、関ヶ原駅に向かった。

 ローカル列車は屋根に鬼ヤンマ全員が貼りついてなんとか行けたが、名古屋に着いて新幹線はさすがに屋根は風に飛ばされるので無理だろうと自由席に全員が乗り込み、室内の屋根に貼りついた。人間にばれないよう、サイゾーが霧の中に隠れる術で鬼ヤンマたちを隠したが、なぜか鉄道オタク軍曹だけは何度ためしても忍術で隠すことが出来ず、鉄道オタク軍曹だけ車掌に移動中ずっと追われていた。

 次の東京駅でも同じ作戦を決行したが、今度は自由席ではなくグリーン席に乗り込んだため鬼ヤンマたちはけっこう快適に移動することができた。お腹がすくと駅弁にだいぶ美味しそうな食事が食べ残されていたため、霧の中に隠れる術で人には見えない鬼ヤンマと鬼ヤンマの背に乗るカメムシたちは「バイキングじゃなぁ~、新幹線いいなあ!」と快適に鉄道の旅を楽しんでいた。先導役の鉄道オタク軍曹だけが、またもや忍術が効かず車掌に移動中ずっと追いかけられていた。

 「仙台~、仙台~、仙台~」と新幹線の社内アナウンスが鳴ると、鬼ヤンマたちは仙台で一斉に新幹線から飛び出した。

 次に鉄道オタク軍曹の指示のもとで、鬼ヤンマ全軍が「るーぶる」というバスに乗った。鉄道オタク軍曹だけは忍術が効かなかったのでるーぶるの屋根の上に乗って移動した。鉄道オタク軍曹の背に乗るカメムシは「なんで俺だけこんなに大変な旅になるんじゃ・・」と船酔いのように目を回しながら嘆いていた。その他のカメムシたちは「お腹もいっぱいになったし、俺たちこれからの戦いは万全、万全」と意気揚々としていた。

 青葉城に向かう途中、道路から石のようなものが飛んできて、「るーぶる」がその障害物をタイヤで踏み、大きなガタン!という音とともに急ブレーキを踏んだ。石のようなものを踏んだのだが車掌が降りてタイヤを確認し「ご乗車の皆様、失礼しました。石を踏みましたが、無事に運行が可能ですのでそのまま進みます」と社内に告げた。車掌はその石を道路の妨げにならない路側帯の隅に置いて車内に戻った。サスケは見逃さなかった。いま踏んだものは何か?自分が乗る鬼ヤンマに耳打ちし、るーぶるが換気のために開けている窓から飛び出して、さっき踏んだものを確認しに行った。そこには石が落ちており、石にはこう書かれてあった。

 「白雲斎の墓」

 なぜ、サスケの祖父の墓石がこんなところに落ちたのか?サスケはくまなくその石を観察した。

 墓石には「白雲斎の墓」と書かれた裏に、文字が彫られしっかり刻まれていた。

 猿飛家 白雲斎 サスケ

 霧隠家 ウポポ サイゾー

 「ん?」サスケは首を傾げた。サスケ、サイゾー、ウポポは生きているのに、墓石になぜ文字が??それは将軍ヤジローの宣戦布告の狼煙だった。青葉城へ「るーぶる」は進む。そこにはこれまでにない規模の東軍の大軍が待ち構え、一行の到着を待ち構えているのであった。

 6日目:東軍の総大将を倒す

 今回は6日目のミッションの中盤となった。鉄道オタク軍曹は無事に青葉城に到着との偉業を達成した。しかし、余韻に浸ることなく帰りのバス時間、乗り換えの時間を考え続けていた。一方、サスケは鬼ヤンマたちが乗る「るーぶる」に戻り、このバスにいることも東軍に計算されていることを急いでウポポ、サイゾーに告げた。すぐさま西軍の鬼ヤンマ全軍は青葉城のバス停の手前で窓から空に飛び出て、忍術がかからず姿が見えている鉄道オタク軍曹だけを残し、戦闘体制を整えるため、八木山ベニーランドに本陣を置くため移動した。

 「僕ばっかり、いつもいやな役回りだなあ」と鉄道オタク軍曹がぼやいた。青葉城のバス停に到着し、道端の草をいじっていると、東軍の全軍が目の前に立ちはだかっていた。鉄道オタク軍曹の背に乗るカメムシは「あわ、あわわわわ・・・!!」と大きく目を開けて、あわてた。鉄道オタク軍曹は全く気がつかず草を手で拾い「ああ、ひまだなあ・・!」と草の根っこを抜いて宙に放り投げた。東軍の総大将・シャークの背に乗る将軍ヤジローの顔面に、草が思い切り直撃し砂が飛び散った。

 そこには、鉄道オタク軍曹をにらみつけ、シャークの背に乗るヤジロー将軍が怒りに燃えながら、まるで肩から煙を出すかのような凄まじい気迫を出して鎮座しているのであった。

#27 Kamemushi Rider "6th day(3)"

 6日目:東軍の総大将を倒す

 今回は6日目のミッションの後半となり。この最後の決戦は、それから野球の世界大会のように凄まじい最終決戦となっていったのだが、そのすべてをここで語ることはカメムシライダーを読んでいる皆さんが「どこまでこの話つづくのかよ・・」と永遠に終わらない客の来ないデパートの売り場でひたすらタグ付けをしているアルバイトをしているかのような気分になるかと思うため、ここからちょっと夜中にテレビをつけたら今日の野球の決勝戦のよいところだけダイジェストでニュースでやってたなあ、ぐらいのライトな感じで最終決戦の様子をお伝えしたいと思う。

 1回表:東軍の攻撃

 東軍の将軍・ヤジローは怒りに燃えながら特大の雷の忍術を繰り出した。鉄道オタク軍曹は時刻表を読んでいたのだが、「八木山動物病院に行ってみよう!」と市営バスに向かって飛んでいき、特大の雷の忍術はわずか数ミリのところで交わされた。将軍・ヤジローは鉄道オタク軍曹を始末するように東軍の忍者の実力者ハンゾーに後を追わせた。東軍の攻撃、0点。

 1回表:西軍の攻撃 0-0

 西軍の鬼ヤンマ部隊は八木山ベニーランド内の安全な場所に西軍のウポポの本陣を準備しようと遊園地を上空からくまなく調査していた。すると鬼ヤンマ軍がウポポ、サイゾー、サスケの静止を聞かず一斉に同じ場所に向かって飛んでいった。遊具コーヒーカップの周りで鬼ヤンマはうっとりし動かなくなった。トンボは回るものが好きなのである。西軍の攻撃、0点。

 2回表:東軍の攻撃 0-0

 東軍の将軍・ヤジローは東軍の総本陣である青葉城にある伊達政宗像までもどるように全軍に指揮した。その間に伝令が届き、関ヶ原からコッコ(黒虎)、ビャッコ(白虎)の両軍が飛行機に積み込まれる仙台に運ばれる段ボールに穴をあけて入り込み、仙台に到着し、荷物が青葉城に届くことを願って待機。しかし、到着したのは青葉区でも作並。東軍の攻撃、0点。

 2回裏:西軍の攻撃 0-0

 西軍の総大将・ウポポはコーヒーカップに見とれる鬼ヤンマが全く動かなくなったため主要なカメムシたちを集め、作戦会議を開くこととなった。クロアゲハとなったサスケの父が黒部ダムで見つけた巻物を太陽にかざすと字があぶりだされ「総本陣は青葉城・伊達政宗像」と書いてあるのを見つけた。「カメムシには遠いなぁ」と会議は嘆き節。西軍の攻撃、0点。

 3回表:東軍の攻撃 0-0

 東軍の総大将・シャークのご飯の時間になり、政宗像の総本陣の中に食料運搬のカメムシたちが入っていった。政宗像は地震で銅像の馬の片足の付け根が折れてしまい、修理のため網でおおわれ中が見えなかった。食料運搬をしたカメムシたちが「ギャー!」と中で叫び声を上げる。将軍・ヤジローは「能力の低い者はああなる」と全軍を脅した。東軍の攻撃、0点。

 3回裏:西軍の攻撃 0-0

 西軍の将軍・サイゾーは霧の中に隠れる術の効果が薄らいでいることを全軍に伝える。モチッチの小さくなる忍術は夜になると効果がなくなるが、サイゾーの術は油分が関係しており、術をかけている間に体から油分が出てくると効果が激減していくという。鉄道オタク軍曹は生まれつき油分強めで忍術がまったくかからなかった。一同は意気消沈。西軍の攻撃、0点。

 4回表:東軍の攻撃 1-0

 東軍の忍者の実力者ハンゾーが鉄道オタク軍曹は捕獲できなかったが、軍曹の背に乗る臆病なカメムシの捕獲に成功し、将軍・ヤジローの前に突き出した。ヤジローは臆病なカメムシを見せしめに東軍の全軍の前で拷問を選択制で選ばせた。こちょぐりの刑をカメムシは選んだ。こちょぐられたカメムシはこれまでの経緯をほとんど話してしまった。東軍の攻撃、1点。

 4回裏:西軍の攻撃 1-0

 何か他に手はないのか・・と作戦会議が座礁していたとき、ウポポが「私の忍術を使うしかない」と言った。サイゾーは怯えながら静かに語った。「黒虎と白虎が2匹組み合わさると人間が作った銅像を動かすことができた。我々は一網打尽にされた。ウポポ様はその忍術を見て体得されたのだ」と。重い空気が流れた。西軍の攻撃、0点。

 5回表:東軍の攻撃 2-0

 東軍の恐るべき無敵の黒虎と白虎が青葉城に集結した。全軍が宮城交通というバスの屋根に乗り、はるばる青葉城まで将軍・ヤジローに謁見しに到着したのであった。関ヶ原で完全に勝利し、西軍が敗走したことを将軍・ヤジローに報告したあと西軍を全滅させるための作戦会議が開かれた。そこで恐るべき作戦が立てられた。東軍の攻撃、1点。

 5回裏:西軍の攻撃 2-1

 八木山動物公園から帰ってきた鉄道オタク軍曹が「面白かった~!」と西軍の本陣に戻ってきた。コーヒーカップに鬼ヤンマ全軍が見とれていたが、鉄道にしか興味のない鉄道オタク軍曹はまったく興味を示さず、本陣にもどって羽根を休めようとしたところにウポポが目の前に現れ、聞いた。「動物園に銅像はあった?」と。新たな作戦が出来た。西軍の攻撃、1点。

 6回表:東軍の攻撃 3-1

 無敵の黒虎と白虎が青葉城に来ることによって、東軍は一気に優勢になったと将軍・ヤジローは確信していた。この2匹がそろうと人間が作った銅像が動かせるからである。まずは試走運転をしようと、あたりが夜になり閉山となった青葉城に月がのぼるのを見計らい合図をすると、馬から政宗像が降り立って刀を振り回した。東軍の攻撃、1点。

 6回裏:西軍の攻撃 3-2

 鬼ヤンマの鉄道オタク軍曹は背にウポポ、サイゾー、サスケを乗せ、鬼ヤンマほど早く飛べないクロアゲハのサスケの父も尻尾をつかんで八木山動物園を目指し飛んでいた。「ここに銅像がありました」と鉄道オタク軍曹は閉館となった夜の八木山動物園を案内した。そこにはベイブブルース像がそびえたっていた。一同はガッツポーズをした。西軍の攻撃、1点。

 7回表:東軍の攻撃 3-2

 「これほどすさまじい気迫の銅像の動きは見たことがない。今宵は祝宴じゃ!」と将軍・ヤジローは凄まじくキレのある伊達政宗像の刀裁きの動きにうっとりし、酒をもってくるよう全軍に指揮した。あたりに雨が降ってきたので「今夜は西軍も来るまい!」と将軍・ヤジローはテントを張らせ、政宗像をみながらみなが楽しく酒を酌み交わした。東軍の攻撃、0点。

 7回裏:西軍の攻撃:3-3

 西軍の総大将・ウポポは忍術を放った。ガシーン!という音がして、ベイブルースの像が肩を回して動き出した。ウポポ、サイゾー、サスケ、サスケの父、飛び疲れた鉄道オタク軍曹がベイブルースの肩や背中に乗り、青葉城へ雨の中を進んでいった。西軍の他のカメムシの精鋭たちも遅れをとるまいと地元のタクシーに飛び乗り青葉城に向かった。西軍の攻撃、1点。

 8回表:東軍の攻撃:3-3

 政宗像が見事な刀裁きを終えて雨の中で刀を水平にかざすと、東軍のカメムシたちは拍手喝采をして喜んだ。その刀をかざした先に、予告ホームランのポーズをとるベイブルース像が立っていた。「やべえ!」と将軍・ヤジローは立ち上がって体制を整えるよう全軍に指示を出した。「同じ術を使えるの奴がいるのか!?」黒虎と白虎は焦りを見せた。東軍の攻撃、0点。

 8回裏:西軍の攻撃:3-3

 対峙する政宗像とベイブルース像。両者は互いにまったく隙がなくずっとにらみあった状態のままであった。まるで桶狭間の戦のように西軍のカメムシたちは少数であったが、東軍の総本陣を押していた。しかしヤジローは総大将・ヘラクレスの背に乗り、黒虎も白虎の両軍も陣形をすぐに立て直した。気がつくと東軍が西軍の周囲を完全に囲んだ。西軍の攻撃、0点。

 9回表:東軍の攻撃:6-3

 ウポポ、サイゾー、サスケ、サスケの父、鉄道オタク軍曹の全員が、勝ちを焦り、東軍に捕獲され、牢に入れられた。ベイブルース像も忍術がとけ動かなくなった。東軍が完全に勝利宣言を上げ、西軍の敗退が決まりかけていた。将軍・ヤジローは高笑いしながら「我々がどれだけ無敵かこれで思い知ったか!」と勝ち名乗りを上げた。東軍の攻撃、3点。

 9回裏:西軍の攻撃:6-7

 勝利宣言をしたヤジローの乗る総大将・シャークを人が持ち上げた。「わぁ!ヘラクレス大カブトのカブトムシがいるなんて、わざわざ仙台まで来たかいがあったわ!」と人は言った。「バブー!」と吠える赤ん坊が頭にミカンを乗せ、ヤジローをメンチを切るような怖い顔でにらんだ。スルガが人にわかる文字でカメムシの事務員に指示しここまで連れてきたのであった。西軍、逆転4点。

 6日目:東軍の総大将を倒す

 今回は6日目のミッションの後半となった。東軍の痛恨のミスは青葉城が閉山になったあとも夜景を見に人が入れるということを想定していなかったことである。

 スルガは偉業を達成した。あの古民家でサラリーマンの夫婦たちは自分たちの鼻の穴をハムスターのように走り回ったカメムシへの怒りに燃えているところへ命がけの作戦を決行していた。カメムシの部隊で事務仕事の合間の息抜きに組体操の練習などをしていたのだが、人がわかるような文字に整列できるよう、かねてからずっと訓練を怠らずにさせていたのだった。

 スルガは最初にカメムシの部隊に指示し、人間たちにわかるように文字を作らせた。そこにはこう書かれてあった。

 『すみませんでした』

 それからカメムシたちの窮状をサラリーマンの家族に時間をかけて丁寧に説明した。そして臭いのしないスーツをカメムシ全員が着用することを約束の上、新幹線で宮城県仙台市に向かったというのだ。スルガは一躍、時代(とき)のヒーローとなった!

#28 Kamemushi Rider "7th day"

 本日は6日目から、その後のお話。時はすこし、さかのぼり、9回表:東軍の攻撃:6-3。

 ウポポ、サイゾー、サスケ、サスケの父、鉄道オタク軍曹の全員が、勝ちを焦り、東軍に捕獲され、牢に入れられた。とあったが、東軍のカメムシたちは7回表に酒宴をし、ほとんどのカメムシが酔っていた。ウポポ、サイゾー、鉄道オタク軍曹は捕まって牢の中にいたのだが、サスケ、サスケの父は段ボールで作られた張りぼてが牢の中に入っていた。ウポポ、サイゾー、鉄道オタク軍曹は東軍を油断させるために牢にあえて捕らわれる作戦で牢の中にいた。サルコ、アカリがトロフィーの中で生存できるタイムリミットが迫っていたからである。

 サスケはクロアゲハとなったサスケの父の足につかまり、東軍の陣地の中を飛んでいた。クロアゲハとなったサスケの父が空中から振り落とす黒い粉が東軍のカメムシたちを一斉に熟睡させた。東軍のカメムシで起きているのは将軍・ヤジローだけだった。将軍ヤジローが「西軍に勝ったぞーー!!」と気分よく勝ち名乗りをあげ、総大将シャークも喜びでジャンプした瞬間、サスケがシャークの真下におり、エクスカリバーをかざして立っていたため、シャークは尻もちをついて絶命した。

 「わぁ!ヘラクレス大カブトのカブトムシがいるなんて、わざわざ仙台まで来たかいがあったわ!」と人が持ち上げた時には、シャークは足がびろーんと伸び、すでに絶命している状態であった。シャークが倒れ、トロフィーにかけられた術が消えた。サルコとアカリはトロフィーから出ることが可能になった。

 サスケはシャークを倒した瞬間にクロアゲハのサスケの父とともに全速力でトロフィーが隠されている場所に向かった。疲れ果てて倒れているスイゾーに「おまえが一番の功労者だ」と言い、スイゾーが必死で積み重ねた黒いガラスを取り除き、中からサルコとアカリを救出した。お腹を空かせたサルコとアカリに、サスケはこっそり新幹線で駅についたときに持ってきた試食用のお菓子のひとかけらを取り出して、サルコとアカリに手渡した。

 「よく無事に生還した。これは、褒美の萩の月じゃ!」

 サスケの手に光る、ふわふわとしたお菓子。やせ細ったサルコは涙を浮かべながら「ありがとう、兄さん。でも、シンゾーさんはどこに?」と尋ねた。サスケは「すまん、俺の臭いをかいで気を失い、モチッチの陣でまだ寝ているんだよ!」と言った。サルコは笑顔になった。アカリは「スイゾーさん!スイゾーさん!」とスイゾーのそばにいき、思い切り泣いた。

 サスケの父は疲労しているはずなのに、熟睡するシンゾーを背に乗せ、サルコの前にシンゾーを降ろし見守った。サルコは喜んでシンゾーのほっぺをつねりながらサスケの父に「あなた、誰?」と聞いた。「おぬしの父じゃ」とサスケの父は言った。サルコにとっても父だったからである(サルコはサスケの妹)。サルコは状況を呑み込めず、父に向かって「クロアゲハの里に行って、自分がクロアゲハになったの?まだ会ったこともなかったけど、お父さんって最低!」と笑った。サスケは「いや、そっちじゃないんだよ。親父がクロアゲハになったのは・・」と言いかけると、サスケに父は言った。「いや、いいじゃないか、そういうことで。おまえからあとでゆっくりサルコに説明すればよいのだ。わしは、もうすぐクロアゲハ大カブトムシとなっていく身じゃ。そうすると、サスケのことも、サルコのことも、すべて記憶をなくしてしまうんじゃ」と。サスケは「それはどういうこと?」と聞き返した。サスケに父は言った。「わしは芋虫ばあちゃんからクロアゲハになり、最後はクロアゲハ大カブトムシになるんじゃ。そうなるとこれまでの記憶が全部なくなる。それがいやだ!というクロアゲハはクロアゲハの里にうじゃうじゃいる。わしは、記憶をなくすがクロアゲハ大カブトムシになると決めた最初のカメムシじゃ。記憶をなくすかわり、世界を平和にするための願いがひとつ叶えられる!との伝説があるんじゃよ!」と。

 サスケは父に聞いた。「そのクロアゲハ大カブトムシになる、というタイミングはいつ?あとどれぐらい猶予がある?」と。父はサスケに言った。「大丈夫じゃ。あと3日はこのままでいれるじゃろう。しかし3日後にサスケとサルコ、おまえらの手で俺をクロアゲハ大カブトムシにしてくれないか。俺の頭にある触覚をこの世で最も愛する者に折られた瞬間におれはクロアゲハ大カブトムシになれるんじゃ」と。「どうして3日なの?」とサルコは聞き返した。サスケの父は「芋虫ばあちゃんの時は四天王に刺されて3時間以内にクロアゲハになったんじゃ。そしてクロアゲハになって刺されたら3日以内にクロアゲハ大カブトムシになるとわしはクロアゲハの里の言い伝えで聞かされとる」と答えた。サスケは「刺されてないじゃないか、ずっと俺たちと一緒にいてもいいんじゃないか?」と聞いた。しかし、サスケの父はこう答えるのだった。「わしも出来ればそうしたかった。しかしな、これを見てくれ」と。サスケの父はわき腹を見せた。するとサスケとサルコは目を丸くして父に聞き返した。「刺されるって、蚊に刺されたのも刺されるに入るの?」と。サスケの父は「そうじゃ・・」と答えた。そこには、むっくりした、かゆそうなふくらみが膨らんでいるのだった。サスケの父は哀愁を漂わせながら言った。「今年の夏は暑かった。猛暑すぎて蚊がまったくいなかった。すっかり油断しておったが、伊達政宗像とベーブルース像が対決しようとしているのに見とれてる時うっかり蚊に刺されてしまったんだよ」と。

 サスケはサスケの父に残りの時間でともに聖書を読んで過ごそうと提案した。サルコは急いでシンゾーを揺り起こし自分の父だと必死で紹介した。シンゾーは夢の中にいるような状態で、クロアゲハが父と言い張るサルコの夢を見ているのだと思いながら熟睡していた。「いいんじゃよ、サルコ」と父は言った。そして3匹は硬く抱き合った。サスケは初めて「父さん」と言ってその胸で泣くのだった。

 翌朝、スルガはビジネススーツを着て、大勢のカメムシの国民たちが旗を振る中で出迎えられた。カメムシたちにとって時代(とき)のヒーローとなったスルガはあいかわらず高い事務能力を発揮していた。分刻みのスケジュールで事務の有能なカメムシたちとともに仕事をしていた。スルガはその後、カメムシ界の総理大臣に任命されるのであった。

 スルガ総理大臣より国土交通省大臣に任命されたのは、鉄道オタク軍曹だった。鉄道オタク軍曹は関ヶ原の合戦でカメムシたちの移動がもっぱら人間の車や電車の移動では、人間に見つかると怪我や死傷することもあるため鬼ヤンマをカメムシタクシーとして国営化したいと所信表明を行ったが、却下された。鬼ヤンマがコーヒーカップの前から動かないからである。

 東軍の将軍であったヤジローは、ミカンを乗せた赤ん坊にすっかり気に入られてしまった。赤ん坊のよき遊び相手として活躍したが、夜中に脱走しようと試みた時、赤ん坊の寝返りの下敷きになり、全身打撲してカメムシ病院に入院した。その後、リハビリで完全回復し、赤ん坊のいる民家にまた戻っていった。その後もずっと赤ん坊とともに暮らすカメムシとなった。

 カルベネ一家は、ジプシー生活を楽しみ、全国各地に歌や踊りが好きなジプシーたちが演奏旅行をして暮らせるカンパニーを設立した。モチッチの軍にいたダジャレが面白くないカメムシもジプシーになりたいとオーディションを受け「オラウータンがバッターボックスに立って言った!おら、打たん!」と言って、ぜんぜん受けず、不合格となった。

 ウポポとモチッチは、なぜか意気投合し、ウポポが女王となるとモチッチは、護衛部隊の隊長としてずっとウポポのSPとして大活躍した。ウポポが食べ過ぎてもモチッチが忍術でウポポを小さくする。それが気に入られる秘訣だったのか?サイゾーがウポポを守る重要な任務につくと誰もが思っていたが、サイゾーは東軍が破れ、西軍が新しい国を建国するとどこかに姿を隠し、行方不明となっていた。サイゾーが西軍を勝利に導いた伝説はずっと語りつがれていたが、サイゾーの姿がまったくメディアに全く出ないことについて「霧隠じゃなく雲隠!」という言葉が、この年の流行語大賞となった。

 世間からサイゾーが誰だかわからないほどの、すすけた身なりで猫の頭に乗ってサイゾーが突如現れたのは、ものすごく人里離れた山奥の集落だった。そこにはアカリとスイゾー、サルコ、シンゾーが自給自足をしながら暮らす民家があった。サイゾーは畑を耕しながら「猫の手も借りたい」と収穫に大忙しのスイゾーの背後から急に猫に乗って現れ「猫の手を貸すぞ」と言って畑仕事を手伝った。スルガ、ウポポ、モチッチたちのように国を動かす側の方には、その後もまったく関心を示さず彼らは平和に暮らしてた。そこには地位も名誉も名声もなかったが、彼らが心から望んでいた、やすらかな日々が続いた。

 サルコは父が蚊に刺されてから3日間のサスケと父の様子をたまに思い出しては、夜空の星を見上げていた。サスケは今はどこにいるのかはわからない。しかし、あれから生涯忘れられることのできない3日間があった。サルコは思い出し、目に涙を浮かべサスケと父の会話を思い出していた。そのときの話を、カメムシライダーの最後に贈る。ここまで読んでくださった方に心から感謝をこめて。ここから、カメムシライダーの最後のエピローグがいよいよ幕を開ける。

#29 Kamemushi Rider "Family"

 サスケの父と過ごす日々はサスケとサルコにとって、あと3日しかなかった。

 サスケは父に聖書をすすめようと思ったが3日で読み終えることは難しいので、サスケが知りうることのすべてを3日かけてサスケの父に話して聞かせた。サスケの父は時には笑い、時には泣き、時には喜んでサスケの話に耳を傾けた。サスケが熱中して話し、力尽きて眠った3日目の朝に、サスケの父は聖書を手にとり、マタイの福音書、マルコの福音書、ルカの福音書、ヨハネの福音書を夜明けに読んだ。サスケの父のクロアゲハの羽根から黒い粉が抜け落ちて白くなり、いよいよクロアゲハ大カメムシになる寸前まで来ていることをサスケの父は悟っていた。

 「そろそろ時間じゃ・・」と、サスケの父は眠るサスケとサルコを揺り起こした。サスケは泣きながら父に聞いた。「どうしてもクロアゲハ大カメムシにならないといけないのかい、父さん・・」と。サルコも涙を目にためながらうなずいた。サスケの父は静かに言った。「わしもおまえの話を聞いて本当の救い主が誰だかよくわかった。わしもこの聖書に書かれとる救い主を信じる。だから、天国ではおまえといつか会ってまた一緒にこうして語らうことができると信じる。クロアゲハ大カメムシになって、わしはやりたいことがあるんじゃ。おぬしらは東軍のわるいやつらと闘ってこれまで来たんじゃろう。わしは、ただおまえらに会いたくて、会って一緒にいたかったんじゃ。黒部ダムで巻物を探したのは、サスケのためでもり、サルコのためでもある。わしは世界中のカメムシの子供で、ほったらかされて孤独でつらい思いをしている子たちを助けたいんじゃ。おぬしらをほったらかしクロアゲハの里に修行に行ったわしが言うのも、おかしな話じゃと思うかもしれんがな、、、わしの子供のころ、とあるカメムシの村に・・親がみんな死んでしまって、シロアリとさびしく洞窟で暮らしていたカメムシがおったんじゃ。そのカメムシはすさまじく凶暴になってな、村のカメムシたちがその洞窟のまわりでそのカメムシの子をいじめていたようじゃったが、いつしか反撃するようになって、村で怪我をするカメムシが大勢でたとのことで、忍術の里の白雲斎のもとにこらしめてくれとの嘆願状が届いたのじゃ。そこで修行中の子供のわしに、相手が子供じゃからおまえが行ってこらしめてこいとわしが頼まれたんじゃ。わしは忍術を覚えたばかりで試したかったからな、そりゃ調子にのってこらしめてやろうと討伐に向かったんじゃ。しかし、その洞窟にいくと、食べるものもなにもなく、亡くなった親の写真と花が割れた瓶にささって置いてあったんじゃ。貴様なにものじゃ、と洞窟にもどってきたボロボロの服を着たカメムシがわしにとびかかろうとしたとき、わしは謝ったんじゃ。勝手に家に入ってすまんと。そのカメムシの子供は、わしに今日は遅いから泊まっていけと言ってくれた。客として扱ってくれたんじゃ。わしは、そのカメムシの子供と親友になり、食べ物の取り方や服の作り方、洗濯の仕方、あいさつの仕方を教えた。わしよりもだいぶ年下じゃったからな、弟のように思ってな、忍術の里に一緒に暮らせないか白雲斎にも何度もかけあって、許可がもらえて迎えに行ったんじゃが、その子は自分からサーカスに志願して、サーカスに入って世界中を旅すると、わしあてに書き置きの手紙を置いていなくなったんじゃ。そのとき、名前を初めて知ったんじゃ。ドン・カルベネと」。サスケはおいおい泣いて心から「カルベネさんは父と出会っていたのか!」と吠えたかったが、声にならなかった。サスケの父は続けて言った。「おまえら、カルベネさんに会ったらな、よろしく伝えてくれよ。おれはクロアゲハ大カメムシになって、世界中のカメムシの子供によりそって生きる道を選んだのじゃ、と。サスケ、サルコ、おまえらは達者に暮らせ。もうわしの時間も限界が来たようじゃ。おまえらの手でわしの触覚を折ってほしいんじゃ。折らねばわしはここで絶命する。折ればわしは記憶がなくなるがクロアゲハ大カメムシとなって、世界中のカメムシの子供たちを救えるんじゃ。自分じゃ触角に手が届かんのじゃ。これ以上こうしておると、クロアゲハの里にいるクロアゲハたちのように未練が残ってずっとここにいたくなるから、おまえらに最後は頼む」と。

 サスケはサルコに目で合図をした。サルコは小さくうなずいた。そしてサスケもサルコも目から大粒の涙をこぼしながら、父の両脇から父を抱き上げた。父の体からは無数の粉が抜け落ちて、痩せこけていき、もはや棒のようになりつつあった。サスケとサルコは互いに「せーの!」と掛け声を合わせ、サスケの父の触角を思い切り同時に折った。するとその中から光があふれ出て、小さな黒いカメムシが宙に浮かんだ。サスケもサルコも泣きながら笑った。

 「ぼく、クロアゲハ大カブトムシ!困った子供のとこにこれからいく。バイバイ!」

 その小さなカメムシは、そう言って、大空高く飛んでいった。サスケとサルコは地面に腰を下ろし「バイバイ」と小さく手を振って大空を見上げた。そこには虹が、空高くアーチを描いていた。サヨナラ、という感じがしなかった。

 サスケもサルコも、泣きながら笑った。

#30 Kamemushi Rider "After day"

 それから時がだいぶ流れた。

 カルベネ一家のアネモネとポルカはジプシーの旅一座にロックバンドの要素を取り入れ、あちこちの巡業に成功を収めていた。アネモネもポルカも年齢(とし)をとり、出演者としては一線から退いていたが、若手の発掘やアーティストのマネージメントなどに手腕を発揮し、カルベネ一家のカンパニーはカメムシ界の音楽業界を盛り立てる一大勢力となるほど、盛り上がっていた。しかし、アネモネとポルカは巡業の合間に、時々、昔を思い出してサスケがどこにいるのかあちこちの巡業で情報を収集しながら旅をしていた。どこに行ってもそのようなカメムシは知らないと言うカメムシが多かったが。

 アネモネとポルカは、サルコ、シンゾー、サイゾー、スイゾー、アカリが暮らしていた集落に行った。全員が眠る墓石には十字架のマークが刻まれていた。アネモネもポルカはクリスチャンホームで育ったが、サルコからシンゾー、サイゾー、スイゾー、アカリへと聖書のメッセージが伝えられ、サルコたちは家族でともに祈りあい、その里で平穏に暮らし続けた。スイゾーとアカリの息子と娘が、アネモネとポルカを墓まで案内した。富士山が見える小高い山に墓はあった。

 アネモネとポルカは白い花をそっと置き、「生きているわけないわね」とアネモネがサスケを思い浮かべてつぶやくと、ポルカは「姉さんの初恋の人だったもんね」とつぶやいた。スイゾーとアカリの娘が「生きてるわけないとは、サスケさんのことですか?」と聞いた。「そう・・サスケさんのお墓はあるの?」とアネモネが聞いた。するとスイゾーとアカリの息子が「なにを言ってるんですか、サスケさんはこの村も高齢化がすごいですが最長老です。あのふもとにある教会にいて、元気に暮らしてますよ。行ってみますか?」と語った。スイゾーとアカリの娘は「そろそろ礼拝だもんね、行こうか」と言った。

 アネモネもポルカも目を丸くした。まさか、サスケが生きているとは?!スイゾーとアカリの息子と娘の案内で、サスケがいる教会の礼拝に出席することとなった。アネモネもポルカも、道すがら「サスケさんが生きてるとは・・。100歳は軽く超えてるんじゃないか・・」と。その教会は木造で、サスケが村のカメムシたちと共に手作りで建てたものだった。アネモネとポルカが扉を開けようとすると、ひどくしゃがれた声で、賛美歌を歌う声がした。その声は紛れもなくサスケの声だった。

 

歌いつつ歩まん(新聖歌325番)

 

1.主にすがるわれに 悩みはなし

十字架の御許(みもと)に 荷を下ろせば

歌いつつ歩まん ハレルヤ! ハレルヤ!

歌いつつ歩まん この世の旅路(たびじ)を

 

2.恐れは変わりて 祈りとなり

嘆(なげ)きは変わりて 歌となりぬ

歌いつつ歩まん ハレルヤ! ハレルヤ!

歌いつつ歩まん この世の旅路(たびじ)を

 

3.主はいと優しく われと語り

乏(とぼ)しき時には 満たし給う

歌いつつ歩まん ハレルヤ! ハレルヤ!

歌いつつ歩まん この世の旅路(たびじ)を

 

・・・静かに扉は開いた。

アネモネとポルカは教会の席に座って、祈った。サスケは満面の笑みで、賛美歌を歌い続けた。アネモネとポルカも、4番を一緒に歌った。これまで隔たれていた時間があっという間に結びつくような思いで唄った。窓から優しい陽の光が教会の中を照らしていた・・・

 

4.主の御約束(みやくそく)に 変わりはなし

御許に行(ゆ)くまで 支え給わん

歌いつつ歩まん ハレルヤ! ハレルヤ!

歌いつつ歩まん この世の旅路(たびじ)を

 

・・・アネモネとポルカは立ち上がって歌った。目からとめどもなく涙がこぼれた・・・

 

歌いつつ歩まん ハレルヤ! ハレルヤ!

歌いつつ歩まん この世の旅路(たびじ)を

 

・・・同じころ、貧しく親に先立たれた子供のカメムシに、黒いカメムシが話しかけていた。「ごはんの見つけ方を一緒にやってみないか?」と。意識が薄れそうになっている子供のカメムシはうなずいた。黒いカメムシの肩をつかんで、よろめきながら立ち上がった。黒いカメムシは「大丈夫、光はあっちだ!一緒にいこう!」と、1歩づつ、ともに歩むのだった・・・

 

                       【カメムシライダー・完】


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